第179話 その夜の行方
外に出るととても寒くて
私は両腕をさすりながら身震いする。
ビルの谷間から
白く光る下弦の月が浮かんでいるのがクッキリと見える。
六本木の夜にはめずらしく
スモッグが全くかかっていない澄んだ夜空だ。
ヴェルファーレを出てから
ユウはムっとした表情で
一言も口をきかない。
私は
月を見上げながら
物思いに沈んでいた。
ヒカルとのドラマチックなワンシーンは
確かにまんざらでもなかったけれど
それよりも美咲のことが胸の奥にシコリとなって残っている。
ぼんやりとしていて
どうにも形容できない感情が
私の中に居座っているのがわかる。
美咲と私は
ちょうど同じ時期に
高校を中退して家出をし
歌舞伎町に呑み込まれた。
育った境遇も現状も
非常によく似た二人の少女が
堕ちた穴の中で出会ったのだ。
私達は
バカみたいに買い物ばかりして
バカみたいに夜遊びを繰り返した。
そして
いつでも「きゃははは」と笑いあっていた。
バカみたいに。
楽しいことがたくさんあったはずなのに
今の私にはそれがほとんど想い出せない。
それどころか
『悲しい思いをたくさんしたよね。』
『酷い目にいっぱいあったよね。』
と、あの頃の美咲に向って語りかける自分を想像していた。
一緒にいた頃は
お互いを慰めあうようなことも
孤独を打ち明けることも一切なかった。
大事な相談の一つもしたことはなく
腹を割って何かについて語りあったこともなかった。
私達はきっと
世間でいう親友などとは程遠い関係だった。
だけど
二人は確実に同じ闇の中で
同じ種類の闇を抱えながら生きていた。
だから・・・たぶん私は
美咲のことを自分自身のように感じてしまうのかもしれない・・・。
「ヒカルさんと何を話してたの?!」
ユウに尋ねられて我にかえる。
私がヒカルのことを考えていたとでもユウは思ったのだろう。
ユウの尖らせた唇を見ながら
この子は本当に簡単だなぁと感じる。
でもユウのその単純さは
私にとってはとても愛しいものなのだった。
「んー。 うまくいってんの?って聞かれたよ。
ラブラブよ! って私が答えたら、ごちそうさま! って笑ってたけどね。
もうすっかり私のことはふっきれたみたいだし、ユウのことも許してくれたみたいね。」
話を少しだけ歪曲して伝える。
「ずいぶん仲良さそうに話してたね・・・。」
不貞腐れた態度だ。
「なぁ~に? 妬いてるのぉ? かわぃぃやつめ。」
私はにっこりと笑って
ユウの手をぎゅっと握る。
「そうやって、いつまで子供扱いするの?!」
ユウは私の手を振り解いてしまう。
相当ご機嫌斜めだ。
「子供扱いなんてしてなぃよ?
ユウもそうやって私に口答えするようになったのねぇ
成長したもんだわ、あはは」
私が茶化した態度をとったので
ユウはさらに憮然とした表情になってしまった。
「これからどうする?
ヴェルファーレで踊らなかったし
せっかくのパラパラの成果を見れなかったから
他のディスコ行こうか?」
そうは言ってみたものの
このまま他のディスコに流れるという雰囲気ではなかった。
どうしたものか・・・。
「ねぇ、この道をまっすぐ行くとさ
ホンダのショールームがあるんだけど、ちょっとそこまで付き合ってよ。」
私はある思いつきを実行しようとユウに提案する。
「ホンダ? 車の? 何しに行くんだよ?」
「いいから! 付いてくればわかるわ。」
私は無理やりユウの手を握って
大きく腕を振りながら歩いていく。
歩きながら携帯電話を取り出し
秘密のメモリを探す。
そして電話をかける。
「もしもし~! トミー? ハロハロ~
今から大丈夫? うん、5分くらいでつくわ。
チョコワンジーデ♪」
そう言って電話を切る。
「チョコワンジーデって何語?!」
ユウはチンプンカンプンといった顔で私に訊く。
「あはは、 何語だろ? 外人のお友達にちょっと用事あるのよ。」
それだけを伝えると
私は鼻歌を歌いながらユウをつれて歩いていった。
今日は結婚記念日!
子供を預けて夫婦二人でディナーしてきました。幸せな日でした^^
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