らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -110ページ目

第243話 祈りと決断

宝石ブルー携帯からの目次を作りました  



ユウと一緒に

私も声をあげて泣いてしまいたかった。


それこそ

めちゃくちゃに泣いてしまいたかった。


本当は私だって

精神的に普通のはずがなかった。


だけど今は

ユウを落ち着かせることが何よりも優先で

私まで雰囲気に呑み込まれるわけにはいかない。


ユウの嗚咽を受け止める。


ユウの全身を包み込む両腕に際限ない愛情を込める。


「神様ユウを元通りにしてください、私に罰を与えてください」

100万回繰り返しながら。


掛け値なく

誰かのために祈るのは初めてのことだった。


もしかしたら私は

今はじめてユウのことを本気で愛しているのかもしれない。

そう思った。


2時間以上が過ぎて

しゃくりあげていたユウの呼吸が整ってきた。


「まりも、ごめん。 ごめんな。 俺を見捨てないで」


ユウは最後の涙を振り絞るようにして私の顔を見上げた。


さっきまでの焦点の合わない虚ろな目ではなくなっていた。


「バカね、見捨てるわけがないじゃない。

涙で絶望の塊を溶かすつもりで思う存分泣けばいい。 

だけど、ユウ、少しは落ち着いてきたみたいだね?」


私は暖かな微笑みを向ける。


「うん、ごめんな。 だいぶ落ち着いた・・・」


ユウは体勢を立て直すと

私にきちんと向き直りシャンと顔を上げた。


注意深くユウの表情を観察する。


「深呼吸してごらん。 うんと深く」


ユウは言われるまま深呼吸を繰り返す。


「私が帰ってくるまで不安でたまらなかったのね。

良かった・・・ ユウ、今はいつもと変わらない顔に戻ってるよ」


祈りが通じたと感じた途端

私の頬を一筋の涙が零れた。


すぐに涙を拭い

後から続こうとする涙をぐっと堪えて

ユウの手を握り締めた。


「手も暖かい。 きっと今日やったシャブはもう抜けてる」


暗示をかけるように言い聞かせる。


「・・・そうかな・・・」


その点に関しては

ユウはまだ不安そうだった。


「だって、夕方に3粒? それっぽっちならもう抜けてるわよ。

いろんな理由が重なって、ユウは取り乱しただけだったんだよ。

壊れてない。 ユウは壊れてなんかいない」


柔らかい声で

だけど力強く諭す。


催眠術をかけるみたいに

ユウの心に確実に浸透させていくつもりで。


ユウの瞳に光が戻ってくる。


神様が

ユウを立ち直らせるために

力を貸してくれていると思った。


もう一押しだ。


「ねぇ、見ていてあげるから、これやってごらんよ」


テーブルの脇に放置されていた

過去の試験が寄せ集められた問題集を開く。


「うん・・・」


ユウは自信なさそうに頷く。


「じゃ、ちゃんと時間を計るからね。 

うんと・・・ 3時45分までに解くんだよ。

大丈夫、ユウなら絶対に出来る。 私にはわかるもん」


にっこりと笑ってユウの肩に両手を添え

「スタート」と開始を告げた。


ユウは

鋭角に削られたえんぴつを握り締めると問題に取り掛かった。


私は離れたダイニングの椅子に座り

足と腕を組んだ。


集中力がどれだけ持続するのかを見極めるために

ユウの背中を見詰める。


忘れられたように置かれていたマグカップを口に運ぶと

コーヒーはすっかり冷たくなっていた。


じっと座っていたら

今までは意識されなかった子宮の痛みに気を取られた。


トイレに行く。


ナプキンには真っ赤な鮮血が染み込んでいる。


この血は一体何の血なんだろう・・・


現実感がなかった。


思わず深い溜息をついた。



ユウの背中を見ながら

いろいろなことが頭を駆け巡った。


ユウにはどうしても試験会場に行ってもらいたい。

そうしないと

ユウはずっと自分を責め続けることになる。


出合ったばかりの頃

まだサロン焼けもしていなかったユウの白い顔

純真なはにかんだ笑顔を思い出す。


私が汚してしまった真っ白なキャンバス。


ユウのためにできること、ユウのためにできること、ユウのためにできること

グルグルと頭の中を巡る一つの考え。




「そこまで」


時間になるのを待ち

ユウの斜め後ろに立つと

肩越しから解答用紙を覗き込んだ。


「全問、埋まってるじゃない!」


「うん! まりもが見ていてくれたおかげかな・・・。 見直しもする時間もあった」


私は心の底から

安堵の溜息をついた。


神様は私の祈りをききいれてくれた。

今度は私が罰を受けるばんだ。


私は決断した。


同時に体の芯から力が抜けていき

膝が震えて体を支えきれなくなった。


躓いたふりをしてソファーに体を流した。


私の限界もそろそろらしい。


ユウは

問題集の後ろの方から答えの書いてあるページを探している。


「ユウ、答え合わせは後でいいわ。

ちょっと聞いて欲しいの。 ・・・これから下北沢の家に帰るのよ」


「え?」


思いがけない言葉に

ユウは戸惑いの表情をみせる。


ここは一番大事な局面だ。


私は心して

このシーンの演出に全神経を集中させた。


「今から自分のアパートに帰って、寝られるならきちんと寝て。

明日はちゃんと試験に行くんだよ。 受験票忘れないでね。


試験が終わったら、歌舞伎町に逢いにきて。

私、ユウが来てくれるのを楽しみに待ちたいの。


一度離れてリセットしよう。

私にもその時間が必要なんだ。 わかってくれる?」


こういう時

私は誰よりも名女優になる。


「今、離れることは

ある意味、ユウにとってもペナルティなんだよ。

ユウは少し強くならないといけない。 わかるでしょう?」


ユウはコクリと頷いた。


「ユウに自信を取り戻すためのチャンスをあげたいの。

私はユウを信じているし、ユウにも私を信じてもらいたい」


歯を見せて大袈裟な笑顔をつくると

「いい?」と返事を促した。


「わかった。 必ず頑張って歌舞伎町に逢いに行く」


ユウは予定通りの答えをくれた。


そう、ユウはそういう子だ。

理由を与えてあげればきちんと頑張れる子。


私は満足しながら付け足した。


「もう一つ。

正直、今回の結果はどうでもいい。

ユウはまだ若い。時間はいっぱいある。

チャンスは今回だけじゃないからね。

プレッシャーを感じないで力を出し切っておいで」


ユウは一度乾いた瞳をまた潤ませて

「俺を責めないでくれてありがとう」と言った。


「もう遅いから、行きな。

寒いから、いっぱい着ていって」


ユウが身支度を整えて

玄関先で見慣れたグレーのダウンに袖を通す。


「じゃ、頑張って。 すぐに逢えるわ」


「うん、まりも、 ありがとう」


ユウがドアを開ける。


「ユウっ!」


思わず引き止めてしまう。


言いたいことはたくさんあった。

だけどほとんどが言葉にならなかった。


「ユウは充分、今のままで良い子だよ。

でも、お母さんに顔向けできないことをするのは

やっぱりユウらしくない。 私のせいで悪かったわ。

これからは自分を取り戻して。 ね」


ユウは少し不思議そうな顔をして

「うん」と右手を上げた。


「ばいばい」


ユウを見送ると

私はその場に泣き崩れた。


信じられない量の涙を流した。

もう強がる必要はなかったから。



ユウとは二度と逢うつもりはなかった。






旦那と子供の冬休みが終了~今日から普通の日常です。

頑張って更新していくのでよろしく☆

遊園地でフリーフォールに乗ってきた。超怖かった;;

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