第332話 幸せな休日 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第332話 幸せな休日

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(今日は最後に告知があります)


翌日目が覚めると

私の気持ちは幾分すっきりとしていた。


純がヤケ酒に付き合ってくれたおかげもあるが

元々私は一晩たつとイヤな事は忘れてしまうタイプなのだ。


俊ちゃんはまだ

隣で気持ち良さそうに寝息をたてている。


私はしばらくの間

彼の寝顔をぼんやりと眺めた。


この二週間

指名を取ることばかりに身も心も費やし

俊ちゃんのことを想う余裕がなかったなと、ふと感じた。


私はそっとベッドから抜け出し部屋着に着替えると

サンダルをつっかけ、コンビニに向かった。


もうとっくにお昼は回っていたけれど

昼食を作ろうと思い、パンと卵とベーコンを買って戻った。


外食とコンビニ弁当ばかりの日々で

家の台所はほとんど使ったことがなく

越してきた時のままのピカピカの状態だった。


実家を飛び出してからずっと

男を渡り歩くように同棲生活をしてきたけれど

手料理なんて片手で数えられるくらいしか作ったことがないし

私に料理を作って欲しいと望む男はいなかった。


そもそも私は料理が出来ないから

望んだところで美味しいものが出てこないと思われていたのかもしれない。


料理の仕度をしていると

サラダ油を買い忘れたことに気づいた。


また買い物に出るのは面倒だったので

スプーン一杯のマーガリンをフライパンに入れてベーコンを焼いた。


それから、ゆで卵とスクランブルエッグを作り

トーストを焼いてコーヒーを淹れた。


「俊ちゃ~ん、お昼ご飯作ったよー! 一緒に食べよう」


「マジ? おっ! いい匂いするじゃん」


俊ちゃんはガバっとベッドから飛び起きると

一直線に台所に向かった。


そこには決して見た目は綺麗ではない食べ物が並んでいたけれど

俊ちゃんは「すげー! 美味しそう!」と大袈裟に喜んでくれた。


「うふふ! たまには私もやるでしょ」


「二年以上付き合って初めてだな。 ありがてぇ~!

どういう風の吹き回しなのや?」


俊ちゃんはパジャマ姿のまま食卓に座り

淹れ立てのコーヒーを啜った。


「最近仕事にばかり目が向いてたしさぁ~

なんつーか… 急に俊ちゃんに何かしてあげたくなったのよ!

まぁ別にこんなの誰にだって出来ることだろうけど… たいした物作ってないしね!」


俊ちゃんの笑顔を見て私も嬉しくなったけれど

らしくないことをしたという照れのようなものも少しだけあった。


「ありがとうな、でもちょっと作りすぎじゃね?」


「あぁ、だって材料全部使っちゃわないと、次にいつ料理するかわかんないし」


「こういうのいいなぁ~

俺と結婚したら、おまえちゃんと料理すっかや?」


「それはもちろんすると思うけど。 

専業主婦なら家事をするのは当たり前だしね」


私は言いながら

果たして俊ちゃんと結婚して専業主婦になれるのだろうかと思った。


ホストの彼とホステスの私が

十年後の結婚生活を思い描くことは難しいことだった。


俊ちゃんと結婚したい。 ずっと一緒にいたい。

私の幸せはそれ以外にはありえない。

そう思っている。


だけどそれが

ちっとも具体的なものではないこともわかっていた。


「私達っていつ結婚するんだろぉ? ねぇ、結婚する気マジである?」


「なにやぁ? 急に。 

おまえは俺の嫁になるに決まってんだろ」


俊ちゃんは屈託のない笑顔でそう言った。


「結婚したらホストはやめるんだよね? お花屋さんやるんだよね?

なんかね、私にとっての結婚って結婚式なんだよね! 

本当はさ、結婚ってその後の生活のことなんだろうけど、全然イメージが沸かないな~。

だいたい子供できてもやっていけるのかなぁ… う~む」


私は考え込んでしまった。


過干渉な親に四六時中監視されて育った私にとって

自分自身が作る新たな家族は希望であり幸福の象徴のようなものだ。


昔から、恋愛の先に結婚があると思っていて

恋愛と結婚は別だという打算的な考えは持っていない。


だけど心の奥底では

条件の良い結婚相手を望んでいるような気もする。


世間一般で『幸せな結婚』とは

お金持ちでハンサムで優秀な男性と結ばれることをさす。


若い頃からいくらでもお金を稼げた私は

彼氏に『お金持ち』であるという条件を望むことはなかった。


むしろお金を持ってる男は不安要素が大きく恋愛対象外で

見た目が良くて、少し不器用な男をいつも選んできた。


平たく言えばハンサムなバカが私の好みで

俊ちゃんはそのものズバリだった。


イケメンで天然で無欲な人。

何より私と相性が良い。


だけど学歴もなく

何か資格を持っているわけでもない彼が

ホスト意外の仕事で成功できるかどうかは微妙なところだ。


私は自分のことを棚にあげて

そんなことを考えながらトーストをかじっていた。

私は自分の外見には自信を持っている。

 

年齢より五歳は若くみられる童顔と

あどけない顔立ちにはそぐわない豊かな胸は

黙っていても男性を惹きつけてきた。


だけど、見た目の綺麗さなんてものは若いうちだけ。

後数年もすれば私の魅力は失われてしまう。

それを誰よりも一番わかっているのは私自身だ。


学歴や資格がないどころか

元AV女優なんて汚れた経歴を持ち

さらには料理は出来ない、掃除も嫌い。


普通に考えたら

こんな女を嫁にしたがる男がいるわけがない。


そんな私達が

お互いを好きだという気持ちだけで

この先何十年と一緒に生活していくことは出来るのだろうか。


考えれば考える程

辻褄が合わなくなり不安は大きくなっていった。


「やっぱ何よりも愛が大事よ! 

愛さえあればどんな困難だって乗り越えていけるよね!」


私は自分に言い聞かせるように言った。


いつかは、自分の思い描くような環境が整い

納得できる形で結婚生活を送れる日がくるのだと信じる他なかった。


「またいろいろ難しく考えてたの~?

おまえは頭でっかちなんだよ、もっと単純に生きろわ~!

てか、食いすぎたわ。 腹くっつい!」


俊ちゃんは私が考え事をしている間に料理を全部平らげていた。


「美味しかったよ。ありがとな」


そう言うと

彼はまた屈託のない笑顔で笑いながら

お腹をポンポンと叩いた。


「もぉー能天気なんだから」


私はやっぱりこの人のことが大好きだと心から思った。


「ビデオでも借りに行くかわ?」 俊ちゃんが言った。


「うん、片付けちゃうね」 


私は食器をシンクに下げて洗い物を始めた。


「俺も手伝うよ」 

彼がフキンを持って私の横に並んだ。


二人で鼻歌を歌いながら洗い物をしたらあっというまに終わった。


何気ない日常に幸せを感じた休日。

こんな日がずっと続けばいいと私はただ祈っていた。


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写真雑誌の『FLASH』のモバイル版に連載を持つことになりました。 

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『らぶどろっぷ外伝』というタイトルで、女友達の様々な波乱万丈な人生を題材に

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