第331話 敗北 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第331話 敗北

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土曜日の営業が終わり

二週間続いたトーナメントも幕を閉じた。


私は真由美に負けた。2ポイント差だった。


栄子には勝てたけれど結局は二位。 

あれだけ死ぬ気で頑張ったのに真由美に勝てず仕舞い。


どっと疲れが押し寄せてくる。


その日のミーティング。


「この二週間、うちの店がオープンしてから歴代一位の売り上げを記録しました。

今ここにいるホステスの皆さんは、そのプライドを持ってこれからも頑張ってください。

トーナメント優勝は真由美! 本当によく頑張りました。おめでとう!」


高梨の発表とともに

周りのホステス達が一斉に拍手を送った。


真由美が颯爽と立ち上がり控えめにお辞儀をした。


「なお、今回は予定にはありませんでしたが

二位と三位だったまりもと栄子にも特別賞が出ることになりました。

5万円の商品券です。 後で事務所まで取りに来るように」


「5万円ぽっち…」

私が小声で呟くと隣の栄子に

『そういうこと言わないの!』と肘鉄された。


だって… だってぇぇぇぇ…


私はかつてない程の敗北感を味わいながら

完全に腐っていた。


真由美はセレクションからラトゥールに上がってきた成り上がりだ。

容姿はラトゥールの中では決して良い方ではない。


ただ、真由美の接客スタイルは

誰もが認める優等生型だった。


河北新報という仙台の地域新聞と日経新聞の二種を取り

毎日何十通も手書きのダイレクトメールを送っている。


同伴で食事に行く時は三度に一度は自分がご馳走すると言っていたし

お歳暮やお中元、客の誕生日には三越でしか買い物をしないそうだ。


出張で仙台にやってきた客にも翌日にきちんとお礼の電話をかけている。


アフターも頻繁で送りの車に乗る日は少ない。


真由美の客は圧倒的にサラリーマンが多く

会社の接待などで使われることも頻繁にあるようだった。


バイトの子達はミーティングの度に

『真由美を見本にするように』と店側から言われているらしい。


真由美はホステスの中でも主任という役割を与えられていて

バイトの子達の面倒見もいいし、絶対に遅刻したり欠席したりはしない。


非の打ち所がないと言えば本当にそうだけれど

だけど! だけどっ!! 


絶対に私の方が可愛い!!

私の方がおっぱい大きい!!


悔しい~~~~


私は思わず膝に置かれたハンカチを握り締めた。


さっきからマナーモードにしたままの携帯電話が鳴りやまない。

どれも客からの着信。 

トーナメントの結果を聞きたくてかけてきているのだろう。

とくに明宏からはひっきりなしにかかってきている。


『はぁ… なんて言お… 負けたなんて言えねぇぇぇぇ』


私はそのまま携帯の電源を切り溜息を吐いた。

それから椅子を蹴っ飛ばした。


「まりもちゃん、飲み行く? 付き合うよ」


見かねた純が

気を使って声をかけてくれた。


「飲むかっ!」


私達はJINROのボトルが入れてある行き着けのショットバーに入った。


純はウーロン割り。私はお湯割り。


「真由美ちゃんが優勝って大穴だったね~」

純が言った。


「ねぇーー。やっぱさぁ、本物は強い! ってことなのかな?

私みたいなやっつけ仕事の色営業じゃ限界あるのかもしれないなぁ」


言いながら

私はお湯割りの中の梅干を

割り箸でグザグザと刺して潰した。


「てか、知ってる? 

真由美ちゃんのお客さんって待ち時間長くても並んで帰らないんだよね。

たぶんさ、真由美ちゃんが日頃気持ちをかけてるから

ここぞって時に助けてあげるんじゃないかな?」


「なるほどねぇ… 

私なんてしょっちゅう『一生のお願い!』とか連発してるし

口だけで調子いいことばっか言ってるから、馬鹿な客しか騙されてくれないょ」


「まりもちゃんの営業は下手な鉄砲数打ちゃ当たる! 的なとこあるもんね」


「ちょ… 純それは酷いって。 まぁその通りなんだけどさ… あはは」


でも2位でも十分凄いって。まだ店に入って数ヶ月じゃん。 

次のトーナメントは断トツでまりもちゃんでしょ」


「はぁ~… 

なんかさぁ、考えてみたら、負けたのが真由美である意味よかったのかも。

納得がいくっちゃ納得いくもんね。あの子の場合、日頃の努力の賜物ってかんじで」


「うんうん。真由美ちゃんって地味だけど根性ある。誰よりも頑張りやだよね。

店側もさ、たぶんまりもちゃんより真由美ちゃんに優勝させたかったと思うよ。あはっ」


「あーー、それは間違いないだろうなぁ。 

てか、いろんな人が『まりもザマぁぁぁぁ』とか思ってそうじゃない?

そう考えると悔しいような笑えるような… やっぱ悔しいな… あはは」


「まりもちゃんは、はたから見ててもえげつないってか『よぉやるわ』ってかんじだからね。 

まぁ自覚してやってるとこが憎めないんだけどさ。あはは」


「でも、やばぃなぁー。私さぁ、今回のトーナメントで客にかなり無理させちゃったの。

出来ない約束もしまくりだったし、けっこうな客が切れちゃうだろうなぁ…

また一から出直しだわ。しかし、リスク取って優勝できないとか超ダセーー!!」


「私もそれなりに頑張ったけど、こういうのって終わちゃうと目標がなくなって

一般営業は張り合いなくなるよね。来週からはみんな気が抜けてそぉ」


「だよねぇ~。私しばらく店休もうかな…

この二週間で客呼びすぎたし、来週から超暇くさいよ!」


「ねぇねぇ、きっと真由美ちゃんはさ、今回来てくれたお客さんにしっかりお礼して

来週からもキッチリ仕事するんだろうね! 優勝したからお礼返しとかもしそう!」


「だろうねー! 真似できないなぁ。

あたしはやってもらう時だけ甘えて、やってくれたら『あんがとさん♪』で終わりだし

それじゃ客が切れても当然だよなぁー」


「まりもちゃんって本当に絵に描いたようなインチキホステスだよね!

そこまで出来ると逆に気持ち良さそうだけどさぁ~」


「ぶっちゃけ成績良ければいいじゃーん!って思ってたけど

なんか今回のことでちょっと反省ってか… やや方向転換を考えさせられたな」


「でも、真由美ちゃんみたいには出来ないでしょ?」


「絶対出来ない。てか新聞とか読めないし! 政治とか経済とかわからんよぉー。

かろうじて総理大臣の名前くらいはわかるけどさぁ。

この前、真由美指名の枝について、真由美と同卓になったんだけど

先物取引がどうとか話してるんだぜ! 意味不明すぎだよー」


「先物取引って何?」


「知るわけないじゃん。円高がどうとか、金利がどうとか。

普通に私抜きで話が進んでたよ。得意の色営業出す展開にすらならないの!

てか、客もそんな話をキャバでして楽しいのかな?って私は思ったんだけど

あんがい盛り上がってたよ。なんつーか、ホステスとしてのスペックの違いを感じちゃった」


「へぇぇ~、私も新聞取ろうかなぁ~」


「えーー。じゃ、私も取ろうかな!」


「まりもちゃん似合わないって。あははははは」


「だよね、だよね… 先物取引がどうとか言われたらさ

まりも全然わかんなぃ♪なぁにそれ?教えて教えて~♪

とかの方がイケてるよなぁ~? いや… どうなんだろぉなぁ… 果たして…」


それから私と純は『出来るホステス』について熱く語り合った。


「良かったよ、まりもちゃん元気になって」 純が笑った。


「うん。これから処理しなきゃいけない客の問題山積みで気が重いけど

純と飲んでたらマジで元気でたぁ! 本当ありがとね」


私は純に感謝した。


「うんうん、また来週からも頑張ろうね」


丁度JINROのボトルが一本あいたところで

二人は家路についた。


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