登場人物
エンミ先生:担任
レニー:2年生のクラスメイト。エストニア人。
アイラ:3年生のクラスメイト。インド人。
アリシア:2年生のクラスメイト。ウクライナ人。
16.エストニアの日
2年生のレニーはエストニア出身だ。8月に転入して来たんだけど、実は最近まで声を聞いたことがなかった。毎日挨拶をしても無表情でこちらを見るだけだ。レニーはみんなの輪の中に入らない。いつもふらっと現れてふらっと消える。食事の席は向かいなのだけれど、じーっと見てくるから目のやり場に困る。僕が初めて彼女の声を聞いたのは授業中先生にレニーが当てられた時だった。
さて、今日はエストニアの日。エストニアについては全てエンミ先生が話した。エストニアにはこんなところがあるよね、こんな食べ物が有名だよねと先生が話しかける度、レニーはうなずくだけだった。エストニアは世界遺産のタリンが有名だけれど、自然豊かな場所でもある。言葉はフィンランド語ととても良く似ていて、フィンランド語が話せれば、エストニア語も話せちゃうんじゃないかと思った。数字なんかほぼ一緒だ。エンミ先生がエストニアの音楽を紹介した時、僕、アイラ、レニー以外のクラスメイトは立ちあがって踊り出した。エンミ先生もサポートの先生たちもノリノリだ。すると、教室の前を通りがかった校長先生と、アンスク、誰か知らない大人2人も入って来て踊り出した。うわ~!すごく外国って感じ!「りくとも踊ろうよ!」とアリシアに言われたけれど、僕は踊ることができなかった。踊るのは苦手だ。驚いたのはレニーがエストニアのお菓子を持ってきたことだ。みんな大喜び。クラッカーみたいな美味しいお菓子だった。この日もレニーは笑わなかった。僕がいなくなる前にレニーの笑った顔が見てみたいな。
帰り道クラスメイトたちが「日本の発表良かったよね!」と言い合っているのが聞こえた。今の所、自分で調べたことを発表しているのは僕一人だ。黄色くなってきた並木道で自転車を走らせながら、僕は達成感を味わった。ひんやりした秋の風が心地よかった。