芙蓉の千城(ふようのたて)

日中戦争間近の昭和8年東京

 

 

歌舞伎作者の孫・桜木治郎(サクラギジロウ)は親戚の娘・大室澪子(オオムロミオコ)を家で預かっている。澪子は劇団で女優をめざしている。美しく自由奔放な澪子の遠距離恋愛は停滞中。陸軍の軍人との見合いのため歌舞伎見物に向かう。

 

向かいの見物席では、下品で胡散臭い男と連れの芸者風の女が熟睡している様子だったけど、いつの間にか姿が消えていて不審に思う澪子。

 

胡散臭い男は右翼結社の幹部で女は大阪の芸妓、2人は死体となって発見されるが、強欲であくどい男を恨む者は多く捜査は難航。

 

捜査が進んでも、凶器と犯行現場が特定できない。

いったいだれが、なんのために?

 

続けて、舞台大道具係の男と小道具係の男が相次いで死体で見つかる。歌舞伎役者とのコネをいかし、桜木が事件の謎を追い犯人を追い詰めます。

 

 

人気歌舞伎役者の襲名や複雑な事情が絡み合いながら話が進みます。歌舞伎の知識がなくても事件の流れがわかるように説明されているので大丈夫。

 

時代は、犬養毅首相暗殺事件や満蒙開拓移民が始まり、軍部が台頭し青年将校のクーデター未遂などあり、左翼弾圧盛んなころです。澪子の遠距離恋愛彼氏は左寄りで、見合い相手の軍人は憂国の右派、華麗な歌舞伎の世界が繰り広げられます。

 

「フランス革命初期の国民議会で急進政党の議員席が議長席の左側に位置していたため『左翼』と呼ばれるようになった」と書かれていて、ほぅそうなんだ!

 

芙蓉は樹の花、芥子は草花、共に朝は美しく咲き、夕べは無惨に散り失せてしまう、儚い一日花の命に変わりはなかった。

テーマは儚さ‥らしいです。

 

林芙美子風の文章にノスタルジック感が漂います。

 

複雑な心情の揺れ動きがていねいに表現され、暗く閉塞感のある世相もわかりやすく描かれています。この先どうなるかを想像しないまま、破滅への道を突き進む時代背景に、あかんやめとけと今なら言えるんですよね。