短編集です。

「人魚の嘆き」と「魔術師」の二編

2022年9月25日発行の文庫本ですが、図書館の本なのに新品みたいにきれいなので、谷崎潤一郎人気ないのかなあと心配(失礼か!)

 

「人魚の嘆き」

主人公は支那の南京在住の若き貴公子。彼は幼い時に両親を亡くし、山のような金銀財宝を独り占めにする身の上になりました。ファンタジー風だけどブラック寄り。

年が若くて、金があって、おまけに由緒ある家門の誉を受け継いだ彼は、もうそれだけで仕合はせな人間でした。然るに仕合はせは其れのみならず、世にも珍しい美貌と才智とが、此の貴公子の顔と心に恵まれて居たのです。

二十四歳の今では、放蕩・贅沢の限りを仕尽してしまい、うつらうつらと無聊な月日を送り、阿片を吸ってぼんやりすごす毎日。

ある日、阿蘭陀(オランダ)の商人が通りかかり「人魚を生け捕ってきた」という。

彼女はたまたま背徳の悪性を具へて居る為めに、人間よりも卑しい魚類に堕とされました。さうして青い青い海の底を泳ぎながら、常に陸上の楽土に憧れ、人間の世界を慕うて、休む暇なく嘆き悶えて居るのです。

アンデルセンの『人魚姫』とはえらい違いです。人間よりも卑しい魚類の人魚姫。

昔から人間が人魚に恋をしかけられれば、一人として命を全うするものはなく、怪しい魅力の罠に陥り、身も魂も吸い取られて、何処へ行ったか人の知らぬ間に、幽霊の如く此の世から姿を消してしまふのです。

阿片中毒の若き貴公子は、金剛石七十個と紅宝石八十個と孔雀九十羽などと交換して人魚を手に入れました。

さて貴公子と人魚姫の運命はいかに?

 

 

「魔術師」

公園内に見世物小屋を出した若く美しい魔術師の、魔術というか幻覚・呪詛・禁厭(マジナイ)あれこれ。スピリチュアルような新興宗教のような不可解さ。

若いカップルが、魔術師の評判を聞いて訪れた見世物小屋。そこには、

妙齢の女の顔が、腫物の為に膿ただれて居るような、美しさと醜さとの奇抜な融合があるのです。

美しさと醜さは、隣り合わせということか。ホラーぽい。

魔術師の呪文の力で、人間を変形させてしまうという出し物に、引き寄せられるかのように「魔術師よ、私は半羊神になりたいのだ」と進み出た若いカップルの男。

二人の恋と、魔術師の術と、どっちが強いか試してやりませう。私はちっとも恐くはありません。私は自分を堅く堅く信じて居ますから。

どうなるのでしょうか⁉

 

独特な文章と、気取って退廃的な谷崎ワールドでした。