海辺の町の小さな名店「夕凪寿司」の物語

大将・さやかが握る寿司は、最高に美味しくて、涙が出るほど癒されます。

「お客さんの心を夕凪みたいに穏やかにする心の安全地帯でありたいの」

 

風波町の海沿いの県道から、風波商店街を歩く作田まひろは、

ショーウィンドウのガラスに、自分が映っていることに気づいた。

背中が丸まり、だらしなく顎が出ていて‥自分でいうのもナンだけど、二十二歳とは思えないほど、くたびれて貧相な女子がそこにいた。

まひろは、この人けのない商店街へ、お昼ごはんを食べにやってきたのだ。

小学四年生だった、あの夜、人生でたった一度だけ生前の母に連れていってもらったのが、小さな老舗の寿司屋『江戸前夕凪寿司』

幼いわたしを睨むことも、罵倒することも、威圧することもなく上機嫌な母とのレアな記憶の食事は、残酷な思い出でもあったのだ。

アル中で日常的に、わたしと母に暴力をふるっていた義父が、法的に家族でなくなった記念日だった。

もう義父の暴力に怯えなくていい。母からの言葉の暴力にのみ耐えればいい。身体の痛みからの解放。痛いのは心だけ。きっと、だいぶラクになる‥

離れて暮らしていた母が肺がんで他界し、再び『夕凪寿司』訪れたのは別れと自由を受け入れる儀式。毒母を亡くした安堵と戸惑い、ようやく手に入れた自由だけど、すぐにはなじめず、何かで区切りをつけて乗り越えようとするまひろ。

 

母と来たころの寿司職人は引退し、その孫娘の江戸川さやかが大将として寿司を握っていた。店の従業員の遠山未來に、ランチタイム過ぎているからと断られ、がっくりしていると店のまかないの海鮮丼にさそわれ、まひろ念願のランチ成功。

 

祖父と孫娘で切り盛りする寿司屋、その寿司屋の住み込み従業員、常連客の建設会社社長、出入りの魚仲卸業者、海辺の別荘に住むお金持ちトレーダーなど

個性的なメンバーたちの現在と過去の痛みが、少しずつ明らかになっていきます。

人生それぞれに悲しみを背負っている、でも、嬉しい時もあるからやっていける。

人生はタイミングだ。

チャンスを逃した自分が悪い。

他人を責めても何もはじまらない。

逃がしたチャンスはいつか再び掴みに行く。

逆境なんかに負けない、いつか上手くいく、きっと幸せになれる。

前向きな気持ちになれる本かと思います。