ほどなくして、彼は自分の街へも現れるようになる。
着飾ったお姉さんが、誇らしげにレコードを抱え歩いているのを見た。
近所の同級生の部屋の壁にも、彼の笑顔があった。
商店街を歩いている時でさえも、彼のメロディが聞こえた。
テレビの中でも、熱狂的な歓声と共にあった。
夜空を見上げながら感じた、何とも言えない気持ちが大きくなっていく。
彼は自分だけの天使じゃない!
歌っている彼の表情が、不機嫌そうに見えてきた。
怒っているようにも見える。
雑誌やテレビも、彼を好意的には思っていないようだった。
彼は性格が悪いんだ。
だって、天は二物を与えずって言うじゃない?!
自分だけの天使でなくなった彼に腹を立て、無理矢理嫌いになった。
思春期は残酷だ。
周囲は目新しい物事で溢れている。
やがて、何もなかったように忘れていった。
思いは過去のものとなる。
…それから30年余りが経過した後、
再び彼を追いかける日々が始まった。