記事をUPすると予告しながら、
先延ばしになっていました。

きょうは“忍者雲”について。
天気マニアの方以外は、読み飛ばしてください(笑

“忍者雲”をご存じですか。
冬型が緩む時、
関東沿岸に局地的な前線ができて、
ポッとわく雲です。

気象用語ではなく、
いわゆる、あだ名なのですが、
気象業界では、
民間の気象会社のウェザーニューズ社のみなさんはこの表現をよく使用します。
かく言う私も、
気象予報士資格に合格したばかりのころは民放のアナウンサーだったため、
業務提携関係にあるウェザーニューズ社で長期に渡って、
研修を受けさせていただき、
当時、この言葉を教わりました。

元気象庁の予報官で、
退官後にウェザーニューズ社で気象解析の指導にあたっていた方によると、
“忍者雲”を最初に使ったのは、
とある新聞記者なんだそう。

どこから忍び寄っているのかわからない、
神出鬼没で予報が難しく、
外れることが多いためです。

ウェザーニューズ社内では、
よく浸透している表現のようです。

この“忍者雲”で、天気予報が難しかったパターンが、
先月25日から26日にかけてです。

通常、冬型の気圧配置の時は、
日本海側では雪や雨が降り、
太平洋側では乾燥した晴れ。
でも、冬型の気圧配置が緩み始めるとき、
関東や東海沿岸では低い雲が垂れ込め、時に細かい雨が降ることがあります。
 
気象庁の数日前の予報では、
晴れマークがつくことも多くて、
天気予報を外しやすいパターンなんです。

実際、11月24日11時発表の週間予報では、
26日日曜日は「くもり時々晴れ」で最高気温は11℃。
 
しかし、この段階ですでに、
この予報を疑う不穏な空気が漂っていました。
850hPa相当温位線が折れ曲がり、風向に着目すると、渦循環も!
 
“忍者雲”の発生の原因は、中部山岳。
冬型の気圧配置の時は、主に北西風が吹きますが、
この北西風、中部山岳を迂回することになります。
西ルートは、標高の低い若狭湾から関ヶ原を抜け、伊勢湾を通り、
西よりの風に。
東ルートは、関東山地を大回りして北東の風に。
この2つの風が出合い頭となるのが、伊豆半島~房総半島の沖合。
収束して局地的な前線ができます。
 
ぶつかり合った風は上昇気流となり、
雲の列ができるのですが、
この時、局地的な前線の北東側にできるのが、
“忍者雲”です。
忍者雲は温暖前線のような雲のでき方が特徴です。

上空には寒気のふたがあり、
北東からの湿った風が西よりの風の壁にぶつかることで、
南西の風に変わりながら低くゆるやかに上昇していきます。
「反転型上昇」とよばれる現象です。
反転型上昇を打ち出した冒頭の元気象庁の予報官、
岩瀬先生の図がこちら。
(日本気象学会2003年10月誌より)

図の右側です。

元々北東の風が、南西の風に変わりながら上昇していき、
その過程で雲ができるのです。

なお、私はウェザーニューズ社の研修の時、
“忍者雲”には3段階あると教わりました。
1.ウナギ型
2.ナマコ型
3.クラゲ型
ウナギ型はシアーラインのでき始めで、細く長く南西方向に雲がのびます。
さらに発達すると、雲が太くなり、ナマコ型になります。
そして、上空の気圧の谷が近づくなどして、
風のぶつかりが激しくなり、小さな低気圧ができると、
温暖前線と寒冷前線を携えたような形となって、
クラゲ型になります。
この段階となると、陸地まで広く雲が広がって、
雨が降ることになります。

実際の雲画像を見てみましょう。
局地的な前線ができ始めたのは、冬型が緩み始めた11月25日午前。
 
伊豆半島から南東方向に長く雲がのびています。
雲があるのは、その北東側だけです。
ウナギ型の段階といえそうです。

次に、25日午後。


細い雲から、太いナマコのような形になってきました。
 
もうこの段階では、陸地にも雲がかかり始めています。
天気図にも、東海~関東沿岸付近に歪みが!
 

そして、26日午前。


上空の気圧の谷の接近に伴って、
小さな低気圧ができ、
北側に丸みを帯びた雲が広がり、南西方向に足のような雲がみられます。
クラゲ型です。
 
このときの推計気象分布がこちら。
 
高気圧が移動性となって、
広く晴れ間が戻った一方で、
関東だけは雨の表示。
 
この雲は一度かかると、小低気圧が東へ離れるまでは、
しつこくとれません。
結果的に、東京では午後も弱い雨が断続的に降り、
最高気温が9.5℃と寒い一日になりました。
 
24日の段階では、晴れマークもついていた東京。
結局、日の差す時間はありませんでした。
これが“忍者雲”といわれる所以でしょう。

でも、“忍者雲”の存在さえ知っておけば、
冬型が緩み始める時に、
もしかしたら、と天気予報を疑うことはできます。
天気予報で、「冬型が緩む予想です」と聞いたら、
くもりマークがついていないか確認してみてくださいね。