きょうも同じ場所に前線が横たわっています。

きのう、気象庁の会見で話題になったこと。

「なぜ、これほどまでに前線が停滞するのか。過去にもこんなことはあったのか。」

一人の予報官は「珍しいことだ」、
もう一人の予報官は「過去記憶にない」
と答えました。

九州北部豪雨や西日本豪雨など、
甚大な被害を出し、名前がついた豪雨は、
ほぼ必ずと言っていいほど、
台風や熱帯低気圧などの熱帯擾乱が関わっています。

しかし、今回、熱帯擾乱という黒幕はいません。

なぜ、これほどまでの豪雨となったのでしょうか。
現時点で考えられる原因を列挙してみます。

大きな原因は
①気圧配置がほぼ変わらない
②大量の水蒸気が絶え間なく補給されている
この2点です。

①について。
まず、気圧配置が変わらないというのは、
前線がほぼ同じ位置に停滞していること。
さらに、一つ一つの雨雲の動きが遅いこと。

これらの要因となっているのが、
日本付近で大気の流れを遅くしている、偏西風の蛇行です。
参照:2020年6月13日

参照:2020年4月18日

春の後半あたりから、
北半球で度々、ブロッキング高気圧がみられるようになりました。
日本に大きく影響を与えるものの1つが、
シベリアの高気圧です。
シベリアで高気圧が強い時は、
冬がそうであるように、
偏西風が南に蛇行して、日本に寒気が落ち込みやすくなります。

梅雨のない北海道は本来ならば一年でもっとも清々しい6月、
記録的な日照不足となりました。
寒気の渦巻き、寒冷渦の影響です。
寒冷渦は、上空の大気の流れから切り離され、
動きが遅くなりました。
後続の高気圧も前が詰まって進めず、
さらにその後ろの梅雨前線上の低気圧やキンクも、動きが遅くなりました。
前線の低気圧やキンクに向かって、
湿った空気が同じような場所に流れ込む状況が続いたのです。

ただ、その水蒸気も絶え絶えとなれば、
梅雨前線の活動は弱まるもの。
しかし、今回は持続的に湿った空気がどんどん供給されています。
それが②です。
 
きのう気象庁から、
中国の長江中下流の大雨について発表がありました。
まさに、この長江流域から絶えず、九州へと水蒸気が補給されています。
この長江流域の水蒸気はモンスーン由来。
 
筑波大の研究者によれば、“大気河川”なんて呼んでいるそうですが、
この水蒸気の通り道ができるのは、
a.インド洋が高温のとき
b.太平洋とインドネシア付近の海面水温の温度差が大きいとき
だそうで、今、a.b.ともに揃ってしまっています。
(Journal of the Meteorological Society of Japanより)
 
さらに、湿った空気は、大陸方面からだけではなく、南の高気圧の縁をまわって、
持続的に注ぎ込まれています。
この高気圧、例年とちょっと違うのが、
西へ西へと張り出し、大陸〜東シナ海に水蒸気を運ぶ道を作っていること。
北へと張り出せば、
梅雨前線も北へと押し上げられるのですが…

高気圧の北への張り出しの鍵を握るのが、
台風の誕生地であるフィリピン近海の対流活動。
台風の1つも生まれるくらい活発なら、
高気圧の下降気流を強めるのですが、今年はいまのところ、とてもおとなしい…
インドネシア付近では活発なんですけどね。
 
なぜフィリピン付近がおとなしいかという話はさらに難しいですが、
インド洋の西部で海水温が低く、東部で海水温が高くなる負のダイポールモード現象が絡んでいそうです。
 
ということで、
大気の流れが遅く、雨雲の動きも遅い、
そのうえ大量の水蒸気が絶えず供給され、
雨雲が同じ場所に次々とできたのではないかと思います。
 
では、目先いったいどうなるのか。
今は、やや陸地にかかる雨雲はばらけていますが、
夕方からは再び九州北部や中国地方で雨が激しくなってきます。
豊後水道を吹き抜けた湿った風が中国山地にぶつかり、
広島県内でも激しい雨が続くおそれがあります。
また、東海エリアも急な降水の強まりに警戒です。

あす日中も、九州北部の山沿いで断続的に激しい雨が降る状態が続くでしょう。
山で雨が激しくなれば、
注ぎ込む川の下流域でも増水が考えられます。
また、新たに東北日本海側も大雨の可能性があります。
 
さらに、大雨がピークになりそうなのが、土曜日です!
またも九州付近で線状降水帯が発生する条件が揃ってしまいます。
 
その後、日曜日後半から月曜日はやや小康状態になりそうですが、
また火曜日に大雨の可能性があります。
まだ終わりは見えていません。
今年はコロナウイルスの影響で、
ボランティアも現地に赴けないときいています。
本当に大変な時期ですが、
まずは、身の安全を第一になんとか乗り切っていただきたいところです。
 

・・・・・・・・・・・

◎気象の解析・解説力UPのためのチャリティーメールマガジン

◎『風の声を聴く』バックナンバー
https://note.com/marikoaraki


◎朝日新聞デジタル『&TRAVEL』寄稿記事

https://www.asahi.com/and_travel/20190913/137048/

外部の画像
気象予報士が紹介!  台風の秋に旅行で失敗しない三つのポイント | 朝日新聞デジタル&TRAVEL(アンド・トラベル)
秋は「台風」「竜巻」「雷雨」が発生しやすい季節です。トラベルがトラブルにならないよう、未来の先読み情報をしっかりキャッチして旅に出たいもの。「私たち人間は天候を変えることはできませんが、天候にあわせて...
www.asahi.com