「南都八景」にも数えられる猿沢池のほとりにひっそりと佇む小さな神社がある。それが采女神社(うねめじんじゃ)である。


あまりに静かな存在のため、気付かずに通り過ぎてしまう人も少なくない。しかし、この神社には、奈良時代から語り継がれる切ない恋物語が残されている。


  愛を失った采女

采女とは、天皇の身の回りに使えた女官のこと。

伝説によれば、奈良時代、美しいひとりの采女が、天皇の深い寵愛を受けていた。


しかし、その愛は永遠には続かなかった。


やがて、天皇の心が離れていったことを悲しみ、采女は絶望の末に猿沢池へ身を投げたと伝えられている。


人々は、その死を憐れみ、采女の霊を祀るために神社を建てた。それが現在の采女神社の始まりである。


  池に背を向けた神社

この采女神社には、他の神社では、あまり見られない特徴がある。


それは社殿が猿沢池に背を向けて建てられているということ。


伝承によれば、亡くなった采女は、自ら命を立った池を見るのが、あまりにも辛く、ある夜のうちに社殿が池へ背を向けたという。


そのため、悲しい恋の記憶を今に伝えるかのように現在も社殿は猿沢池とは反対の方向を向いている。



  中秋の名月の夜だけは...

普段は門が閉ざされ、猿沢池に背を向けて静かに佇む采女神社。


しかし毎年、中秋の名月の夜に行われる「采女まつり」では、美しく飾られた花扇が池に流され、雅楽の調べとともに管弦船がゆっくり水面を巡る。


月明かりに照らされた猿沢池は、この日だけは悲恋の舞台から華やかな王朝絵巻の舞台へと姿を変える。


かつて愛に生き、愛に傷ついた采女も、この夜ばかりは宮中で過ごした幸せな日々を思い出しながら、門が開かれた社殿から、満月と猿沢池を静かに見つめているのかもしれない。


  語り継がれる切ない恋物語

華やかな平城京の時代に生まれた、1人の女性の悲恋の物語。


采女神社は、その記憶を今に伝える場所であり、池に背を向けた社殿は、千年以上の時を超えた今もなお、静かにその伝説を語り続けている。


  采女神社へのアクセス

所在地:奈良市樽井町(猿沢池横)

近鉄奈良駅から徒歩約5分

JR奈良駅から徒歩約15分

普段は門は開いていないので外からのみ参拝可


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