サチはタクミとの別れから数週間が経ったが、心の傷は癒えることなく、日々の寂しさに苛まれていた。彼女は仕事に没頭しようと努力していたが、夜になると孤独が襲ってきた。そんなある夜、彼女はふとした衝動に駆られ、友人のアヤに連絡を取った。

「アヤ、今夜、飲みに行かない?」サチは電話越しに少しでも気分転換を求めた。

「もちろん、行こうよ。どこかいいところある?」アヤの返事に、サチはほっと胸を撫で下ろした。

二人は新宿の小さなバーに足を運んだ。店内は落ち着いた雰囲気で、ゆったりとした時間が流れていた。サチはカクテルを一口飲むと、ふとした瞬間、タクミと訪れたことのあるバーを思い出してしまった。

「サチ、大丈夫?」アヤが心配そうに尋ねる。

「うん、大丈夫。ちょっと思い出しちゃって…」サチは強がりを見せたが、目には涙が浮かんでいた。

その夜、サチはアヤと別れて一人で帰宅する道すがら、ふと歌舞伎町のネオンが目に入った。彼女は無意識のうちにその明るさに引かれ、足を踏み入れてしまった。歌舞伎町の夜は賑やかで、人々の笑い声や話し声が響いていた。サチはその中で、ふと自分の孤独を忘れることができた。

彼女は何軒かのバーを渡り歩いた。酔いが回ると、心の中の寂しさが少しずつ薄れていくような気がした。しかし、家に帰ると再び孤独が襲ってきた。サチは布団の中で、涙を流しながら眠りについた。

翌日、サチは二日酔いに苦しみながらも、何とかオフィスに向かった。仕事中も、頭の中は昨夜のことでいっぱいだった。昼休み、彼女はふとしたことから、同僚が歌舞伎町のホストクラブに通っているという話を耳にした。それを聞いた瞬間、サチの心に奇妙な興味が湧いた。彼女はホストクラブについて何も知らなかったが、そこで何か新しい刺激を見つけられるかもしれないと思った。

仕事が終わり、サチは再び歌舞伎町に向かった。今夜はひとりで、あえてホストクラブの前まで足を運んだ。店の前に立つと、中から楽しげな音楽と笑い声が聞こえてきた。サチは一瞬躊躇したが、勇気を振り絞って扉を開けた。

店内は思ったよりも洗練された雰囲気で、若いホストたちが客をもてなしていた。サチは少し緊張しながらカウンターに座り、ドリンクを注文した。すると、一人のホストが彼女のもとに近づいてきた。

「初めてですか?僕、リョウって言います。よろしくね」彼は爽やかな笑顔でサチに挨拶した。

サチはリョウの明るさに少し心を開き、二人は軽い会話を交わした。リョウの話し方は自然で、サチは彼と話しているうちに、徐々に心が軽くなっていくのを感じた。その夜、サチは久しぶりに笑顔を見せ、ホストクラブを後にした。

帰宅すると、サチはふと気づいた。リョウとの会話で、タクミのことを一度も思い出さなかったことに。彼女は自分の心に小さな変化が起きていることを感じ、少し希望を持ち始めた。もしかしたら、この新しい出会いが、サチの寂しさを紛らわせるきっかけになるかもしれないと思ったのだった。