チエミは早朝から目を覚ました。外はまだ暗く、静かな闇が部屋を包んでいる。彼女はベッドからそっと起き上がり、リビングへと向かった。カーテンを開けると、ぼんやりと街灯が照らす道が見えた。彼女の心は、昨夜の言い争いの余韻でまだ重かった。

コーヒーメーカーをセットし、淹れたてのコーヒーの香りが部屋に広がる。その香りが少しでも彼女の気持ちを和らげてくれることを願った。カップにコーヒーを注ぎながら、チエミは深くため息をついた。ヒロとの関係がここまで冷え切ってしまうとは、想像もしていなかった。

ヒロが起きてくる時間には、チエミは既に朝食を用意していた。しかし、二人の間には前夜の会話の後の気まずさが漂っていた。ヒロは何か言おうとするが、言葉がうまく出てこない。彼はただ静かにコーヒーを飲み、新聞をめくるふりをした。

「ヒロ、昨日はごめんなさい。ちょっと感情的になりすぎたわ。」チエミが静かに切り出した。ヒロは彼女を見て、少し安堵の表情を見せた。

「いや、こちらこそごめん。チエミの言うこともわかるんだ。もっとしっかりしなきゃな」とヒロが応じた。この言葉に、チエミはほっと一息ついた。少なくとも、話し合いのドアはまだ完全には閉じられていないと感じた。

その日の夕方、チエミはヒロと一緒に近くの公園を散歩することにした。散歩は二人がリラックスできる数少ない共通の趣味の一つだった。公園のベンチに腰を下ろし、夕暮れ時の穏やかな風を感じながら、二人は少しずつ心を開き始めた。

「ヒロ、私たち、どうすればいいと思う?」チエミが静かに問いかけた。

「うん、正直、僕もよくわからないんだ。でも、一緒にいることが大切だとは思っている。だから、何か解決策を見つけたいんだ」とヒロが答える。チエミはその言葉に少し安心したが、同時に彼らの問題が簡単に解決するわけではないことも理解していた。

「カウンセリングを本当に必要なのかもね。もしかしたら、外部の人の意見が役立つかもしれないわ」とチエミが提案すると、ヒロは少し考えた後、頷いた。「そうだね、試してみよう。」

帰宅後、二人はインターネットでカウンセリングの情報を調べ、近くのカウンセラーを見つけた。予約を入れると、どこかほっとした気持ちになった。少なくとも、前に進む一歩を踏み出したという事実が、二人の間に新たな希望をもたらした。

数日後、カウンセリングの日がやってきた。チエミとヒロは手をつなぎながらカウンセリングルームに入った。カウンセラーは温かい笑顔で迎えてくれ、二人の緊張をほぐしてくれた。話を始めるにつれ、チエミとヒロはお互いに対する本音を語り始めた。涙がこぼれることもあったが、それが二人の間の壁を少しずつ取り払っていく感覚があった。

カウンセリングを終えて外に出たとき、夜の空は星がきれいに輝いていた。二人はしばらくその場で星を眺めながら、互いに感じたことを話し合った。この一日が、二人の関係を少しでも前に進めるきっかけになったことを、チエミもヒロも感じていた。

「今日はありがとう、ヒロ。こんなに話せたのは久しぶりだったわ」とチエミが言うと、ヒロは彼女の手を握りしめ、「うん、ありがとう。これからも一緒に頑張ろう」と答えた。その夜、二人は久しぶりに一緒のベッドで眠りについた。心に残るわだかまりはまだ完全には解消されていないかもしれないが、少なくとも、再び一緒に歩み始めたことに、二人とも確かな希望を感じていた。