劣化が止まらない日本 安倍政権6年半の「なれの果て」
日刊ゲンダイDIGITAL 2019/09/15
 
■上から下まで総腐敗
 
理性とモラルの喪失(C)日刊ゲンダイ
 
 いつから、日本はこんな国になってしまったのか。
 
 時代が令和に変わって以降、日本社会の理性とモラルを疑うような事件が相次いでいる。
 
 例えば、詐欺的手法が次々と明るみに出た日本郵便の「かんぽ生命」不正販売。ターゲットは主に地方の高齢者で、詐欺的手法を担ったのは、高齢者に身近な郵便局員たちだった。
 
「郵便局」という地方で圧倒的な信頼を持つ肩書を悪用し、営業成績維持のため、組織ぐるみで数字をカサ上げ。契約を取りやすい独居老人を「ゆるキャラ」「半ぼけ」「甘い客」と陰で呼び、ひとりに数十件も契約させるなど、特殊詐欺グループも真っ青の悪質さ。
 
 日本郵便はかんぽ販売のノルマを廃止するというが、問題の本質は「過剰なノルマ」だけでは片づけられない底流にあるのは、理性とモラルを喪失した日本社会の劣化ではないのか。
 
 報酬不正で日産を追われた西川広人社長も同類だ。検察とタッグを組んだ報酬不正事件でゴーン前会長を追い出しながら、自らも業績連動型報酬の権利行使日をズラし、4000万円超を不正に受け取る犯罪的チョロマカシ。こんなトップが企業統治改革の旗を振っていたとは、冗談にも程がある。
 
西川 廣人(さいかわ ひろと)
1953年11月14日(65歳)
東京大学経済学部
職業:実業家
日産自動車株式会社 代表執行役社長・CEO
役員報酬制度で不当に数千万多く受け取っていた。西川は問題発覚後も続投の意向を示していたが、9月9日の取締役会で社外取締役の井原慶子が辞任を促し、山内康裕COOも即時の辞任を主張。ルノーのジャン=ドミニク・スナール会長も賛同し、事実上の解任となった。翌10日に北京市で記者会見を開いた川口均副社長は、「西川社長の気持ちを察すると忸怩たる思いだ」とした上で、「ガバナンス改革が機能した」と評した。
 
 日産のほかにも、神戸製鋼東芝三菱マテリアル……と日本を代表する大企業が、ドミノ倒しのように「不正」や「改ざん」に手を染める。最近も日立製作所が外国人実習生に計画外作業を指示して、業務改善命令をくらったばかり。同社の中西宏明会長は経団連のトップだ。企業の模範となるべき立場すら守れない倫理観の逸脱。「公正」「正直」「勤勉」という日本人の美徳は、とうに死語と化している。
 
 ここ数年、児童の虐待死のニュースは後を絶たず、「最低限の責任」すら果たせない親が増えている。ちょっとしたことでキレる大人も増え、厳罰化が求められるほど、あおり運転が社会問題化。鉄道各社が啓発ポスターを掲出せざるを得ないのも、駅員への暴力沙汰が数多く発生している証拠だ。
 
 言うまでもない常識がもはや通用しないほど、この国は堕落してしまったのである。
 
■美徳破壊の政権が生み落とした卑怯な社会
 
顔を見ない日はない(C)聯合=共同

「日本社会の構造的な劣化が、いよいよ覆い隠せなくなって一気に表面化した印象です」と言うのはコラムニストの小田嶋隆氏だ。こう続ける。
 
「私は2012年を境に日本社会は変容したと感じています。リーマン・ショックからの長引く不況と、3・11の一撃を経たタイミングで誕生したのが、第2次安倍内閣でした。粛々と日本を立て直すことを期待したのに、結果はモラルぶっ壊し政治。改ざん、隠蔽は当たり前で、平気でごまかし、嘘をつく。『総理のご意向』の忖度強要で官僚機構のモラルは崩れ、今や機能不全に陥っています。
 
 強行採決の連発で民主的手続きを無視し、集団的自衛権容認の解釈改憲で憲法をタテマエ化。この春から予算委員会の開催すら拒み続けているのです。日本社会の寛容性が失われていく中、率先して『公正』『正直』『勤勉』という美徳を破壊。こんな政治が許されるなら、正直者はバカを見るだけとなり、卑怯な社会に拍車がかかるのは当然の帰結です」
 
 落ちるところまで落ちた政界劣化の象徴が、「日本人の知性の底が抜けてしまった」と文筆家の古谷経衡氏が喝破したN国の出現だ。同党所属の丸山穂高議員は竹島を巡り「戦争で取り返すしかないんじゃないですか?」と自身のツイッターに投稿。昭和の時代なら、こんな暴言を吐いた時点で即刻、議員の職を失ったものだ。そうならないのが、政治の劣化とメディアの堕落を物語る。
 
丸山 穂高(まるやま ほだか)
1984年1月10日(35歳)
大阪府堺市
東京大学経済学部
前職:国家公務員(経済産業省)
衆議院議員(3期)
所属政党
(日本維新の会→)
(維新の党→)
(おおさか維新の会→)
(日本維新の会→)
(無所属→)
NHKから国民を守る党(同党副党首)
2019年5月11日、北方領土のロシア人住民と日本人の元島民らが相互に往来する「ビザなし交流」の日本側訪問団に同行した際、滞在先の国後島古釜布の日本人とロシア人の友好の家で、酒に酔った状態で訪問団の団長に対して記者取材中に割り込んだ上で、「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」などと質問し、「戦争はすべきではない」と答えた団長に対し「戦争しないとどうしようもなくないですか」等と発言した。その後も、訪問団員らの制止を聞かずに大声で騒いだり外出しようとしたことから、元島民らから謝罪を求められる事態となった。丸山は帰港後の会見において、「酒に酔って騒いだこと」については謝罪したものの、戦争に言及した発言については「賛成か反対か聞いただけ」「別にそういう話があってもいい、何がダメなのか分からない」「真意を切り取られて心外」「言葉尻だけとらえられても困る」等の回答を行った。発言を受けて日本維新の会代表の松井一郎大阪市長は、「言論の自由なんで、個人の表現の仕方の中での発言があるかもしれないけれども」と前置きした上で、「党として一切そういう考えはない」「武力で領土を取り返す解決はない」とコメントし、丸山を厳重注意した上で発言の撤回・謝罪することを指示し、丸山は同日深夜に再度会見を行い、謝罪と撤回を表明した。
 
 今やメディアは「関係悪化の全責任は韓国にある」とケンカ腰の政権をいさめるどころか、一緒になって朝から晩まで嫌韓扇情一色日本の内閣改造の“お友だち”人事よりも、韓国法相の疑惑のタマネギ男の追及に血道を上げているのだから、権力の監視役を期待するだけムダである。
 
□■韓国叩きで留飲を下げる世の中でいいのか

 前出の小田嶋隆氏はこう言った。
 
「不安なのは国民の嫌韓感情をあおって、安倍政権が維新の会を巻き込み9条改憲に突き進みそうなことです。改造内閣のメンバーを見ても、最側近の萩生田光一氏をはじめ、安倍首相の親衛隊のような“ネトウヨ”大臣ばかり。日本社会のモラル喪失を逆に利用して、この国をガタガタにした張本人である首相が『社会がほころんでいるからこそ、改憲でこの国を変える必要がある』『“お花畑”の憲法では今の日本は治められない』などと言いだしかねません」
 
萩生田 光一(はぎうだ こういち)
1963年8月31日(56歳)
東京都八王子市
明治大学商学部
前職:
八王子市議会議員秘書
八王子市議会議員
東京都議会議員
文部科学大臣
教育再生担当大臣
衆議院議員(5期)
自由民主党(細田派)
2014年3月23日、フジテレビ「新報道2001」に出演した際、第二次世界大戦下における慰安所の設置及びいわゆる朝鮮人従軍慰安婦の調達に関して旧日本軍の関与を認めた河野談話について、「新しい事実が出てくれば新しい談話を発表すればいい。(安倍晋三首相も新談話を)どこでも否定していない」と述べ、河野談話の検証により新たな事実が判明した場合、安倍晋三首相が新たな談話を発表する可能性に言及した。内閣官房長官の菅義偉は翌24日、発言は萩生田の個人的見解であるとし、河野談話を「検証はするが、見直すことはあり得ない」と述べた。
 
 民衆の不安や危機感につけ入るのが、権力者の常套手段。6年半を過ぎたアベ政治も常にそうだ。そんな腐臭漂う政治が社会全体に伝播し、上から下まで総腐敗の惨状を招いているのが、安倍政権6年半の「なれの果て」である。政治評論家の森田実氏はこう言う。
 
「競争第一、弱肉強食の『新自由主義』がはびこりだしてから、この国はおかしくなってしまった。新自由主義に潜むのは『今だけカネだけ自分だけ』の考え。この発想に国の指導層が完全に染まっています。かつては政治家も経営者も官僚も『国民の生活を豊かにする』との気概に満ちていましたが、今や見る影もない。コスト重視で賃金を減らし、大衆からの収奪しか考えていません。『貧すれば鈍する』で、生活が苦しくなれば精神もすさんでいく。日本社会の荒廃は『今だけカネだけ自分だけ』主義が招いた必然なのです。加えて戦争を知らない政治家ばかりとなり、隣国に対する過去の反省や責任も放り出しています。はたして嫌韓扇情に留飲を下げる世の中でいいのか。腐敗した社会への批判精神に国民が目覚めなければ劣化は止まりません」
 
 劣情国家の行く末を危ぶむ気持ちがあれば、批判の声を上げ、うねりに変えていくしかない。
 
=== 日刊ゲンダイDIGITAL 記事(ここまで)===