王子の関係でまたまた思い出したことがある。
でも言っとくけどこの話にオチはありません。
学生時代、王子は誰とでも仲良くしていたが、その中でも特に仲が良かったのはT君という男の子だった。
真面目な二人は大教室の一番前の席で授業を聞いていた。
誰かの代返やらサボりやらは全くしたことがない。
T君は余計なことは一切喋らない。
武士みたいな人だなと思っていた。
色黒でひょろりとした体型のなかなかのイケメンの彼とまともに話したことは学生時代殆どなかった。
しかし、この同窓会で一次会のみで帰る私と夫にT君は声をかけてきた。
「俺も失礼するよ。」
「いいの?うちらは子供を残してきたから早く帰るけど。」
「うん、俺、明日、出張だから。」
とてもとてもゆっくりとした口調で低音ボイス。へぇ、こんな喋り方をするんだと思った。
卒業して10年以上たって初めて知った彼の喋り方。夫とは仲が良い、ってほどではないけど二人とも余計な話をするタイプでもないからポツポツと会話をする。すぐ会話は途切れる。なので自然と私が喋ることになる。
「mariaさんは今は働いてないの?」
「あ、うん。そのうちパートとか出たいなーとは思ってるけど今は子育てしてる。幼稚園に入るまでは専業かなー?」
まあ、幼稚園に入る時に次男を妊娠し、そのままずーっと専業主婦なんだけどね。
Tくんも結婚してたはずだから聞いてみた。
「T君の奥さんは働いてるの?」
「いや。彼女は外で働くのが嫌いだから勤めには出ない。」
「へー」
「最初にそう言って結婚したからね。」
「おお、なかなかはっきりした奥さんでいいね。」
「うん。気は使わないかな。明日奥さんの実家の近くに出張なんだよ。だから奥さんの実家に泊めてもらうんだ。」
「あ、じゃあ、奥さんも一緒に行くんだ。なんか出張で帰省も兼ねていいね!」
「いや、彼女は来ないよ。別に帰省したくないみたい。」
「え?じゃあ、T君一人で奥さんの実家に泊まるの?」
「うん。」
「すごいね。この人(夫)は絶対に無理だわ。別に仲が悪いわけじゃないけど、間が持たないと思う。」
「ハハハハ。」
T君と駅で別れて夫と話す。夫は相変わらず私とT君の会話にニコニコしながら相槌をうっていただけだった。
「なんかさ、T君とまともに話したの初めてだったんだけど。意外と話すのね。」
「そうなんだ。学生時代より喋るようになったかなぁ。」
「あなたは相変わらずね」
「……。」
それにしてもT君の声と話し方。物凄く聞き覚えがある。
思い切って夫に言った。
「あのさ、T君の話し方と声、藤岡弘、に似てない?」
夫爆笑
「俺もそう思った。二人で話してるの聞いてて『おー、藤岡弘、がいる!』って。学生時代は感じなかったんだけど、あれは藤岡弘、だったよな。」
てなわけで、王子の親友は藤岡弘、だったという話です。