4/3

朝からネットでヴェイユ社と代理店契約を結ぶことになった商材に関わるニュースを検索していた。昨年12月に入社してから私の仕事は何ひとつ定型がないところから始まっている。とにかくネットからの情報を探る毎日。代理店としては、ヴェイユ社のシステムやその他についてのあらゆる情報は欲しいところ。検索ワードも日により変えてみる。今朝、目に止まったニュースを山口部長と神村課長にメールで共有する。山口部長はすぐに反応し、どう検索したのか聞いてきた。

このシステムは業界ではホットなアイテムだし競合他社も乱立している。私は入社した昨年末からヴェイユ社のシステムには注目していて、山口部長には伝えていたが、着手してくれなかった。そもそも今、進行している別のプロジェクトに専念したい雰囲気だし、入社したばかりの私もなかなか強く推せなかった商材だ。


別プロジェクトは私が入社したころには既に始まっていて、私の仕事は、デモ機ベルダーを装着するところからの参加だった。ベルダーはメーカーが別業界でヒットしているもので、私の前任者が展示会で見つけてきた商材。前任者は何の事情かは知らないが上の階に引き抜かれ、その空席を埋めるために私が雇われた。私は何となく事務系の仕事を探していて求人に応募した。その辺りのことはまた別で書こうと思う。

入社したその日にベルダーを装着させられた。ベルダーの感想を聞かれ、正直なところそこまでバッサリ言える雰囲気ではない空気を読んだ。山口部長は私がその業界に長く経験もあることで、その業界で売れるかどうかを一番気にしていた。だからベルダーを装着させるなり、どう?コレと装着感の意見を気にしていた。そして自らもベルダーを装着して、コレ、展示会などでは人だかりで好評すぎて驚くんだ!と鼻息が荒かった。


ところがプロジェクトが予想を下回る結果で、現状を毎週社長へ報告しに行く山口部長の背中は明らかに重い空気を背負っていた。数分後項垂れて戻ってきた山口部長は、ため息が全身からダダ漏れていて、社長から、言い訳するな、売れ!と言われたよと弱音を吐いていた。なんで、こんなに最初は評価高いのに実際ベルダーを貸し出しするとなんだかんだ売れないんだ。もう貸し出しやめようかな。ぶつぶつ独り言なのか相談なのかどちらとも言えるようなところからミーティングに繋がっていく。販促戦略の練り直しも私なりに考えていたが、それは部長の仕事だ。そのラインを越えたら部長の自尊心さえもズタボロにする部下になってしまう。だから、付け加えるように、私の考えを伝えた。このプロジェクトのロイヤルカスタマーはその組織のトップですから、そこに訴求することに注力しましょうよ!と一言言ってみた。


ここ数日、私は新しい商材も検索していたが、そもそも営業とは何かと、これも休みの日もネット検索、YouTubeなどを見ていた。その中で私に刺さった営業戦略は、万人受けするものはヒットしない。幅広い客層ではなく、リピーターとコアなカスタマーは誰なのかを訴求してこそ売れる理由が掴めるという結論に至っていた。今のプロジェクトは営業先の社員全員が気に入らないと購入されないと言うところからのスタートだった。そんなトリ部長が、プロジェクトが進むにつれ、商材のアラがネックとなり、一つも売れないことに愕然としている。その日、私は、全社員に気に入られるかではなく、トップが気に入ったそのタイミングで売れたらいいですよねと話した。山口部長も、そうだよね!そうしよう!とパッと目を上げて声のトーンも一つ上がっていた。


そんな山口部長の日々の様子を目の当たりににした数日前に、私はもう一つ新たな商材に着手するべきだと思い立っていた。あの昨年末に見つけたシステムを改めて調べてみよう。。寝起きでも、休日でもその思いがあって、業界の動向も含めて探った。

私の結論は、いい。いや、良すぎる。絶対来る。そんな思いが固まる。明日、山口部長に報告しよう。タイミングも大事だ。何しろ山口部長は進行中のプロジェクトがまた失敗に終わるとなるとあれだけ売れると息巻いていたのに、結果は惨敗、オオカミ少年になっちまうと、気落ちしている。ここで新たな商材を持ち掛けたところで、まだ今は考える余裕がないよ。などと草食男子的にあしらわれてしまう。その報告の仕方も頭の中でロープレしてみていた。

今日は絶好のタイミングじゃないかと思える日の朝に、実は、、、と持ち掛けた。山口部長が社長報告から戻って気落ちしているタイミング。山口部長も気持ちを入れ替えて落ち着いたこのタイミングとしては絶好だと感じて、新しい商材のこのシステムのことを伝えた。もちろん切り出しのセリフも数日間、声のトーンさえも頭の中で何回もロープレしていた。

私は、新しいお話があるのでお時間割いて頂けないでしょうかと切り出した。山口部長はふっと表情を変え、ワクワクしたような声で、え?何?何?と反応した。

もちろんコチラも、その表情と雰囲気を察し、宝石を見つけました。と言った。山口部長はあからさまな態度で、え、何よ、いいよ、今話してよ。と感心を示した。

そんなコトが3月のはじめにあり、ようやく今、このシステムの代理店契約に漕ぎつけた。

コトは始まったばかり。これから契約書のリーガルチェックなど堅苦しい事務作業が多くなる。


夜は銀鱈の煮付けにした。素材が高いと味付けも緊張する。ひろくんは甘めが好きなのも考えて味付けした。美味いと褒められた。天才?ときくと、天才!!と褒めてくれる。安っぽい褒め言葉が丁度いい。明日は夜仕事になったという。怪しさはない感じだけど、一応チェックは必要。5日は休みになったというので、ちゃんと病院に行くように促した。