「おねぇさん、M子ねぇさんは大丈夫やったの?」

「うん…怪我は大丈夫。見ててくれてありがとう」
ハイハイで母の元に寄る男の子を抱きあげ姉は言った。

「T子、あんたは夜働くのを辞めて、今から美容学校に行って美容師になんなさい。あんた髪の毛さわるの好きでしょう…おねぇさんがお金はどうにかするから…この子ももう保育園行けるし、夜はおかあちゃんに預けて、私は新たなお店にフルで入るわ。お金貯めて自分のお店もつ。もうM子には何も頼らないよう、私がおかあちゃんもT子もみんな面倒見る」

半年前。
大阪に出たM子に連絡した姉。

「子供も産まれて、おかあちゃんや妹らの生活見るのがしんどい…」
「甲斐性ない人と結婚するからや」
「…余裕あるなら助けてほしい」
「おねぇさん、大阪は稼げるところや、みんなで出てきたらいい。仕事先、住まいは紹介できる」

姉はM子を頼りに夫、子供、母と妹を連れ鹿児島から大阪へやってきた。

M子だけが頼りだった。

「おねぇさん、子供はおかあちゃんに預けて3時間だけお店入って私のヘルプにつけばいいわ。T子も、店にお願いしてあげるわ」

M子は羽振りよく着物、ドレス、住まい、食事お世話してくれた。

ただお酒が入ると傲慢な態度は度を越し、母親にまで偉そうに言うようになった。

「私がいないと、何もできへんやないの」が口癖のM子に心底嫌気がさしていた。

それにT子は繁華街を歩けば度々身の覚えのないケンカをふっかけられた。
「あんたが○○○のT子やね!よくもうちのこと、あることないこと言いふらしてくれたなぁ!○○さんに誤解されたやないの!」
「痛い!やめて!私は何も言いふらしてないし○○さんいう人も知らない!」
髪の毛を強く引っ張られ離せた時には相手の指の間に毛が何本も挟まっていた。
T子は泣きながら、M子ねぇさんのことを頭に浮かべていた。

母、姉、妹。
何も言わなくても同じことを考えるようになった。

これ以上M子の好きにはさせない。

関わらなくて済むよう自立をしなくては。

月日は流れ。
姉は2人の子供を授かり、夫と母に協力してもらい、仕事に励み5年後南にラウンジを開店させた。
T子は美容学校を3年で卒業、美容師免許取得、昼は美容室、夜は姉のお店を手伝った。

その頃、M子25歳。
同じく南にお店をもった。
古谷との交際は続いていた。

古谷はお店来ることはほとんどなかった。
M子は自由奔放、夜を舞う蝶だった。
つかみどころがなく人気は健在だった。

姉とは雰囲気の違うお店。
どちらも繁盛していた。

風の噂では度々耳にしたが偶然にも会うことはなかった。

M子の25歳の誕生日はオープン祝いも兼ねてかつてないくらいに盛大に行われた。
M子は大きな夢を胸に抱いてた。
その夢は手を伸ばせばすぐにでも叶いそうな気がした。


昭和50年新しい年は忙しく始まり、順調そのものだった。
ところが2月半ば。
不安げな顔をしていているM子の姿があった。

生理が1週間遅れているのだ。

まさか…


続く