今日は、マスタリングについてお話しします。

 

マスタリングという作業は、

私にとって、

大変ミステリアスなものであります。

 

マスタリングエンジニアは、

大抵、機材の前に一人で座っています。

 

ミキシング時のように、アーティストも

ミキシングボードの真ん中に座ったり、

スピーカーの中間に頭を置いて、

再生される音をチェックしたり、

そのような真剣かつ、

カジュアルな雰囲気ではありません。

 

マスタリングエンジニアは一人、

私たちに背中を向けたまま

(陰りのあるスーパーヒーローの

イメージです。笑)、

ノブやレバーのついた卓の前に座って、

それらを、右に動かしたり左に動かしたり、

倒したり引いたり、etc.

それが繰り広げられている間に

流れる音の方向性は、

確かに変わっていくのです。

しかし、何をどうしてそうなったのか、

その過程を説明される事はありません。

 

ミキシングの仕上がりに、

まだ微妙に直したいところがある場合、

例えば、歌が小さい、とか

ベースが飛び抜けて聞こえる、とか、

そういうシンプルな調整は、正直、

マスタリングの場で、ある程度は

出来るものなのです。

そのあたりのフリークゥエンシーの音の

レベルを変えるので、

例えば、ベースと同じあたりの

フリークゥエンシーの楽器や声が

他にもあった場合は、その音にも

影響は出て来てしまいます。

 

そういう、ボリュームの事は

ある程度分かりやすいですが、

エンジニアがマスタリングでする

EQに関しては、

この仕事を35年している私にとって、

未だにミステリーです。

同席しているミキシングエンジニアでさえ、

マスタリングエンジニアが

私たちに背を向けた状態で何をしているかは、

はっきりは分かっていないと思います。

 

私が、これはマスタリングマジックだな、

と初めて感じたのは、

私がバートバカラック作品を歌った

”Is There Anybody Out There”の時です。

 

その時のマスタリングエンジニアは、

私が長年一緒に仕事をして来た、

グラミー賞を何度もとっている

BIGBASS BRIANこと、Brian Gardner。

 

レコードでなくCDですが、

出来上がったCDを初めてかけた時、

レコードに針を落とした時、

ふわっと、優しい、

新しい風が吹き抜けたような、

そんなセンセーションを感じました。

言葉では表現出来ない美しさでした。

 

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前作、Awakeningでは、

私はマスタリングをしなかったのです。

なぜなら、出来上がったミックスたちを

とても気に入っていたから。

信頼するエンジニア、

Brian Reevesとの共同作業でしたが、

あまり変えたい部分はありませんでした。

 

マスタリングによって、

時間をかけ、愛情込めて作って来た音楽が、

さらに美しく輝く場合と、本当に、

一瞬のうちに輝きを失ってしまう場合と、

その両方あります。

実際私は、その両サイドを経験しています。

(もちろん、私は

最善の音をお届けするように、

常に戦って来ましたが!)

 

80年代、90年代は、

私たちアーティストは、マスタリングを

しなければレコードは作れませんでした。

お弁当箱のような形をした、

独特なマスターを最終の形にしない限り、

レコードやCDは作れなかったのです。

 

しかし今は、WAV.ファイルです。

誰にでも、作れます。

 

マスタリングというのは、

音をホットにするためにも行われて来ました。

ホット=大きな音量。

もちろん、割れるほど

熱くしてはなりませんが、

ラジオなどでオンエアーした場合、

人々の耳に、ジャンプするような音量。

 

しかし、それも、今はミキシングの段階で

調整出来ます。

 

前作品の時、私にはちょうど、

マスタリングエンジニアがいない時でした。

いつもお願いしていた

ロンドンのマスタリングハウス、

MetropolisのIan Cooperが

引退してしまったからです。

 

実はその前のアルバム

(Sharp As a Knife, 

Sweet As Strawberries)の時点で、

イアンはすでに

引退してしまっていたのですが、

その時は、私の息子、アンディの友達の中に

一人、マスタリングで

良い仕事をする子を見つけて、

本当に若い子ですが、

ニューヨークにいまして、

で、その子と仕事をしたのです。

 

しかし、Awakeningの音は、

彼ではちょっと違うだろうな、

とそう思いました。

彼は、、、、若い!

 

いや、実際は、最後の最後で、

声をかけたのです。

で、一曲、Shellという曲を、

そのSamくんが、

こんな感じではどうですか、と

マスタリングして

メールして来てくれたのですね。

そうしたら、やはり、

私とブライアンでミックスした、

そのオリジナル音源の方が

パワーがあり、音が豊かだったのです。

それで、今回はごめんね、と言いました。

悪くはないのだけど、何かが違いました。

 

そして、ブライアンに、

”私、今回は

マスタリングしないでリリースしようと

思う。ミックスがとても良く上がって来たので。

それでいいかな?”とメールしました。

 

そしたら、ボリュームも問題ないし、

曲から曲への音量の差も、

きちんと不自然でないように気をつけて

WAV.ファイルを作ってあげるから大丈夫、

と太鼓判を押してくれました。

 

それが、前作でした。

 

実は、Ianが引退した時、

”僕の後は、この人だったら信頼していいと

思う”、と紹介してくれた

マスタリングエンジニアが

いました。その人は、

Abbey Road Studioの方ですが、

He was way too expensive for me!! 

 

以前、何作もマスタリングしてくれた

さっきもお話したBrian Gardnerとは、

私のアルバム、

Uncompromising Innocenceの時以来、

一緒に仕事をしていません。

 

なぜなら、一曲目の

”The Most Beautiful Thing”

でぶつかって、つまずいてしまった。

彼は、ビッグベースと

呼ばれているくらいですから、

低音を強調するタイプの

マスタリングエンジニアです。

もちろん、それだけではないですが、

Dr. Dreなどの、多くのラップアーティストに

慕われ信頼されているのは、

そういう部分があるからでもあります。

 

(彼は私の”Wonderful People”という

アルバムもマスターしてくれたのですが、

あれも私と彼のコラボの中では、

素晴らしい出来の一つでした。)

 

で、その一曲目。彼はキックドラムを

ビシバシ押し出して来た。

ダンステューンなのでね。

でも、これはちょっとやりすぎでは、と

何度もスタジオで止めに入ったのですが、

私の言う事を聞いてくれなかったのです。

いや、これでいいのだ、と。

 

出来上がった音は、私には、やはり、

キックがディストートしているように

聞こえました。

CDを作る前に、

スタジオに電話をして修正をお願いしました。

自分の音楽を守るために、

出来る限りの事はしました。

 

その後、他の仕事で、古巣ビクターの

スタジオに行った時、

知り合いのマスタリングエンジニアが、

その曲に関して同じ事を指摘して来たのです。

あれはどうしちゃったの、と。

ショックでした。

 

アーティストの声に耳を傾けて

くれなくなったマスタリングエンジニアとは

もう仕事できない、と。

心が壊れるような気持ちでしたが、

彼には、その時点で、

マスタリングを頼まなくなってしまいました。

 

そして、今年、そのビッグベース ブライアンも

スタジオから引退されました。

最後はそんな感じになっちゃいましたが、

私の音楽をいつも楽しんでくれた人です。

ハードフィーリングはありません。

お疲れ様でした。

 

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それで、今回はどうしようか、と。

 

私のエンジニア、

Brian Reevesとも話しました。

(私の周りにはブライアンが多くって、

皆さんにとっては、話が少し

ややこしくなって来ます。)

前回のように、

マスタリングしないで出しても

いいものか。最後の最後まで悩んでいました。

前回そうしましたが、

何となく、プロセスを一つ端折ったような

複雑な心境が残ったからです。

 

Brian Reevesから、

現在のマスタリング事情について、

心のこもったエキスパートとしての

返事もいただきました。

 

内容をシンプルに説明すると、

今、この時代、

マスタリングをする、しないは、

アーティストのチョイスだという事。

80、90年代と今とでは、

音楽の作り方が違う。

マスターファイルの形も違う。

どうしてもするというアーティストもいれば、

バイバスするアーティストも多い。

本当に信頼できて、

マスタリングのエキスパートであり、

音楽に理解のある

エンジニアがいるのだったらする。

そうでなければ、

今まで積み上げて来たものを

壊す必要はない、という内容。

 

ブライアンとのミキシング、マスタリングに

関してのダイアログと並行しながら、

実は、私は、

ロンドンのMetropolisで以前お会いした

日本人のスタッフ、

Hitoshiさんと連絡を取っていました。

イアンが引退してしまい、メトロポリスで

知っているマスタリングエンジニアは

いなくなってしまったけど、

メトロポリスには、iMasteringと言って、

ネット上で依頼できる

マスタリングシステムがあります。

エンジニアを指定できる場合と、

お任せの場合、値段は少し違うのですが、

メトロポリスのような名門に、

経験の浅いマスタリングエンジニアが

いるはずがないというのがまず、

浮かびますよね。

ただ、目隠し状態でマスタリングするのは、

背中だけ見ながらマスタリングするより

怖いかもしれません。

 

そんなわけで、Hitoshiさんにも、

CDのデッドラインのスケジューリング

などを相談し、

実はスタンバイしてもらっていたのです。

私がマスタリングを決断する時のために、

です。

(エンジニアのスケジュールも

押さえてくださっていたようです。

すみません。

ありがとうございます。)

 

そんな時、私はふと思いました。

その数日前に、Tonight Showという

NBCの深夜のトークショーに

音楽ゲストとしてパフォーマンスした

元Oasisの Liam Gallagherの事を。

全盛期を彷彿とさせるような、力強い

歌声で、最新の

ソロアルバムも購入しましたが、

中々良く、その中のBoldという曲を、

私のラジオ番組でも紹介しました。

 

突然、

(あのアルバムは

誰がマスタリングしたんだろう)と、

頭の中で問いかけがありました。

 

 

〜続く〜

 

 

 

とりあえず、今日はここまで!(笑)

皆さん、今日も良い日を。

 

真理

 

 

Mari Live in Tokyo 2018 "Chaos and Stillness"

1月6日(土) 2018 白寿ホール

昼の部 13:30開場/14:00開演

夜の部 18:00開場/18:30開演

 

キョードー東京 : 

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