伊福部隆彦は鳥取県智頭町の山間の小さな村の神主の家に生まれました。
隆彦は若くして生田長江の門をたたき、文芸評論家、詩人として世に出ました。
ところが、長江は隆彦を前にして、
「君のように正直で純粋な人間は将来必ず宗教の道に入る」
と予言されたそうです。
しかし、当時の隆彦には宗教は軟弱なものに思われ否定したとのことです。
その後精神的経済的苦境を通し、長江の予言通り宗教の世界に入っていくことになりました。
その際に、自己を見つめ精神を深める目的で、今までとは異なる作詩活動に入りました。
そして、、新しい詩の境涯を開くに至ったのでした。
そのような時、自らの詩を同門の後輩で、ヘルマン・ヘッセの愛弟子でもある、
芳賀檀氏にドイツ語に翻訳して頂き、ヘッセに送ったところ、
ヘッセより水彩画と共に「Alle tode」(全ての死を)という詩が送られて来ました。
その詩を読み、ヘッセの仏教理解の深さと独自性に驚き、
ますます自己の詩境を深めたのです。
隆彦最晩年の詩に次のような作品があります。
冬
冬よ
私はあなたをたたえる
人はあなたが多くのものを 空にし、無に帰らせるので
まるで死の行使者のやうに言ふけれど
私は知つてゐる
あなたは曾つて一度も 生くべきものを葬つたことはない
ことごとくみな すでに地上に仕事を了へたもの達を葬るのにすぎない
しかもあなたは
その葬りに於てさへ 純白の雪をもつて、美しく被ひかざることを忘れぬのだ
そしてあなたは
生くべきいのちに対しては
その限りなきふかい愛によつて
或は土中にふかくひそませ
或は殻や萼や核にかたくまもらせて
未来への大きな美しい夢と
それを実現する跳躍力とをもたしめる
私は知つてゐる
あなたがゐなかつたら
私達生命は 遂ひに神のきびしく高い愛を知らないであらう
否、私達自身の 神のいとし子であることを知らないだらう
しかも あなたは
私達に何ものも求めない そして
私達があなたによつて与えられた夢を
美しく花発き 芽ぐんで神を讃える時
あなたはもうすでに この地上にはゐない
1962-2-5