ワールド・ミュージックCDの先駆けとして知られる、ノンサッチ・レーベルの「エクスプローラー」シリーズ。80年代にアナログレコードで音楽ファンを虜にしたこのシリーズが、国や地域で選ばれた50タイトルが再びCDとして甦る。
音楽研究者が現地を訪れて収めたものを中心とした、演奏だけでなく当時の空気感も伝わってくる貴重な音源の数々。もちろん、楽器や文化の変遷を知る上で重要な証拠となる、学術的な角度から捉えられるシリーズだ。
加えて音楽に対して機能を求める近年のリスナーに対し、ワールド・ミュージックというジャンルの下で幅広い選択肢を提供している。“癒し”の感覚は人それぞれ異なるかもしれないが、くつろいだ感覚や透き通るような純化した世界観は共通項といえるだろう。タヒチやオセアニアの生活の中で奏でられた素朴な時の経過、韓国のバンソリや中国琵琶の揺らめく旋律は、せわしない私たちの日常のスピード感を一瞬リセットしてくれるかのよう。祝祭の儀式で歌われる伝統的なスタイルを収録したブルガリアン・ヴォイス、4タイトルあるチベットは声明の深淵なる響きで包む。いずれも神聖な風がこちらにも届く音源。
また現在のクラブ・ミュージックに応用されたルーツとして、“インスピレーション”の源ともなる。ジンバブエのムビラの重奏と歌声の掛け合いは、現代音楽/ミニマル・ミュージックに多大な影響を与えた。微妙な音の揺れと重なり発展する旋律の構成をひも解くと、慣れ親しんだ音楽の中にも新たな発見に出会えるに違いない。多様なスタイルを収めたトルコのトラディショナル・ミュージック、幻想的なモチーフを奏でるペルシャのサントゥールもオリエンタルな響きと喜びが凝縮されている。ベリーダンスをきっかけに踊りの持つ魅力の奥底を探るために、文化背景にも触れたいという好奇心にも応えられる内容だ。
音楽に“スリル”や“興奮”を求める方には、トリニダードのスティール・バンドや南インドの打楽器ムリダンガムをお薦めしたい。パーカッションを主としたものであり、妙技を楽しめるだけでなくアンサンブルの練り上げる高揚感が収められている。同じく高揚感から恍惚への道筋を記録したのがパキスタンのカッワーリーだ。神との合一を体験する目的でイスラム教のスーフィー神秘主義に伝わるこの音楽が放つ声の渦は聴き逃せない。 スタジオで演奏されたワールド・ミュージックも数多く店先に並ぶ昨今。その中にあって、世界各地の生活に根ざした臨場感を封じ込めたノンサッチ・エクスプローラーの存在は貴重なものだ。私たちそれぞれの志向で選択し楽しめる、喜ばしいシリーズの復刻だ。
Text by Hiyoshi (Dakini Records / Global Chillage Tokyo)