即興ヴォイスの草分け的 | ノイズのなぐさめ

ノイズのなぐさめ

歪んだ美意識。
ちっぽけ 些々たる しがない
たわい無い 些末 末梢的
スマート、スィート、デンジャラス
大切なのは長く働くこと。

60年代フリー・ジャズ隆盛期のNYアンダーグラウンド・シーンにおける即興ヴォイスの草分け的存在であり、後年はウエストコーストに拠点を移して活動を存続、ESPの2作品が根強くカルトな人気を博す

前作「シングス」に収められた「わたしの髪は闇の色」の、声がピアノを陵辱するが如きほの暗い闇の幻に魂を氷結させた諸氏よ、次の「カレッジ・ツアー」へ歩を進めて何を思っただろうか。これを耳にしても尚、よもや怨念や狂気で説く愚鈍はおるまいが、笛に踊って服を脱ぐ田舎っぺだけのとぐろする日本サイケの風潮へ、踏み絵を以って再び体感すれば良い。
 ロスアンゼルス出身の平凡なジャズ・ボーカリストであった彼女が、その特異な才能を発揮したのは、六十年代の政治と前衛の季節によってであった。夜毎世界に向けて産み出される異種の萌芽はニューヨークのジャズレーベルESPによってつぼみを膨らませ、そのさ中、パティ・ウォーターズはまさに陰花植物のように花を咲かせたのである。
 暗黒の歌姫の名を決定付けた「シングズ」、そして同時期にリリースされた「カレッジ・ツアー」の二枚のアルバムは、反射光の異質によって闇の相似を成したシャムの双子である。氷結と戦慄、または感銘と共鳴という異貌が露わにされるのは、皮肉にも三十年の時を経て後であるが、しかし本作はその本質を伝えるに充分余りある内容である。つまり人間の声が楽器音の高みにて融合し、乱反射する瞬間こそが本作のすべてなのである。
 何故に彼女の声に狂気を思うのか、その理由も明白である。観客の拍手を現実に据えて対比させるが故に、暗闇の深みと重量を心に刻み付けるからであろう。狂気は、しかし悲鳴の如きフルートの音として確実に記録されている。或る終末の日、異界へ戻っていったジャズマン、ジュゼッペ・ローガンによる妄想の電波が、それである。