クライマーズ・ハイとは、登山者の興奮状態が極限まで達し、恐怖感が麻痺してしまう状態のことを指す。
「チェック、ダブルチェック」
悠木は、この言葉が言いたくて新聞記者になった。
1985年に起こった日航機墜落事故。
520名の犠牲者(4名の生存者)を出した世界最大の飛行機事故である。
その事故原因という大スクープを手中にして、紙面に打つかどうかを迷い、葛藤する全権デスク。
それは、命を追った登山者の興奮状態にも似ていた。
男は、一人つぶやいた。
「チェック、ダブルチェック」
それは、恐怖感が麻痺しないための言葉のハーケン(くさび)だった。
確かな裏が取れているわけではない。
男は、また、一人つぶやいた。
「俺には打てない。」
後日。
息子が打ち込んだ金属製のハーケンに命を救われた。
「チェック、ダブルチェック」
実に。
日航ジャンボ機墜落の真の事故原因は、いまだ定かではない。