「ちょっと、そこの旦那。」
声をかけられた気がした。ドラッグストアの店内。
え?と思って振り返る。いない・・
「旦那、こっちだよ。」
馴れ馴れしい言葉使いは好きではない。もう一度振り返る。
変な男がいた。
「ねえ、旦那。モロッコ産に興味はないかい?」
趣味の悪いグレーのスーツを着た小柄な男。
微笑んではいるが唇は歪み、目じりも上がっている。瞳の奥から何か炎のようなものが見える。
自分ではセットしたつもりだろう、しかし趣味の悪い髪型。
一見して堅気の人間でないことがわかった。かかわりたくない。
無視して通り過ぎよう。
「旦那、へへ。疲れてるでしょ。気分がすっとするよ。どう?」
無視。
「ばちばち言ってさ、たまらない快感だよ。これはね、モロッコ産なんだ。」
こんなときはフランス語で煙に巻いて逃げよう。
「Ca ne me regarde pas. Allez vous en!(俺には関係ない。出ていけ!)」
と言おうとしたらこの男、連れの女がいた。フランス語を話している。
どうやらフランス人の女らしい。兄妹なのか女も似た顔立ち。
人類がガミラス星に滅ぼされかけてもこんな女を好きになれない。
「ねえ、お兄さん。ストレス解消できるよ。モロッコ産が嫌ならフランス産はお・す・き?」
ついに誘惑に負けて買ってしまった。自分があまりに情けない。
「へへ、旦那。あまり癖になるなよ。」
捨て台詞を残し男女は去って行った。
帰宅しさっそく使う。
