「凶悪」('13) | Marc のぷーたろー日記

「凶悪」('13)

2005年に明るみになった、死刑判決を受けて上告中の容疑者が獄中から告発した3件の殺人・死体遺棄事件、いわゆる「上申書殺人事件」の真相を追ったノンフィクションベストセラー小説「凶悪ーある死刑囚の告発ー」を映画化した作品です。主演は山田孝之さん、共演はピエール瀧さん、リリー・フランキーさん、池脇千鶴さん他。

映画『凶悪』公式サイト
Wikipedia「凶悪 (映画)」
原作感想

原作はノンフィクションであるからこその「読み応え」がありましたが、これをそのまま映像化してもただ残酷なだけで「映画」にはなりえません。それをどうやって「映画」たらしめているのか、というポイントで観てきました。

なるほど。

原作にはない映画独自のアレンジとして、主人公の雑誌記者の家族問題を描いているのですが、これを加えることで、事件の背景にある「高齢化社会」の抱える問題を非常に分かりやすく示していますし、同時に、ジャーナリズムやその伝えるものを「楽しむ」大衆の偽善や「凶悪」性をも的確に表現しています。実録モノの映画にありがちな、残酷性や異常性ばかりを強調した露悪趣味の映画とは一線を画す内容になっており、その着眼点やアレンジはグッド!

実際の事件をドキュメンタリーではなく、敢えて「映画」にする意味をちゃんと持たせています。

ただ、見せ方や構成にはいささか疑問。

中盤は完全な回想シーンで、主人公が一切登場しません。いきなり事件の全容が明らかになってその様子が観客に延々と示されるのですが、そこに尺を割き過ぎていて、主人公が事件を追うに従って徐々に「取り憑かれて行く」様子が全く描かれていないのです。もちろん、そこは「行間を読め」ということで頭では理解できますし、原作を読んでいる僕には主人公の記者がいかに苦労して真相に迫ったかも分かるのですが、純粋に映画だけ観ていると、いとも簡単に主人公が全容を把握してしまったように見えて、演じる山田孝之くんの「やつれぶり」が唐突に見えてしまうのです。

作り手側の訴えたいことはとてもよく分かるのですが、期待が大きかったせいか、思ったほど「ガツン」とは響きませんでした。

それでも、この映画は間違いなく「観応え」のある作品にはなっていますし、できれば、原作を読んで実際の事件について知っておいてから観た方がいいかもしれません。

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