「風立ちぬ」('13) | Marc のぷーたろー日記

「風立ちぬ」('13)

大正から昭和にかけての日本を舞台に、ゼロ戦の設計者として知られる航空技術者・堀越二郎の半生を、作家・堀辰雄の実体験に基づいた小説「風立ちぬ」のエピソードをフィクションとして盛り込んで描いた宮崎駿さんの同名漫画を宮崎駿さん自ら監督して映画化したアニメーション映画です。声の出演は庵野秀明さん、瀧本美織さん、西島秀俊さん、西村雅彦さん他。

「風立ちぬ」公式サイト
Wikipedia「風立ちぬ (宮崎駿の漫画)」

最近の宮崎作品に馴染めなくなっていたので、今回の新作も観る気はなかったのですが、たまたま映画館で観た予告編が、その映像とユーミンの「ひこうき雲」があまりにぴたりとはまっていて、不覚にも予告編で泣いてしまったのです。それをきっかけに考えを一変。この作品だけは絶対に映画館で観ると決めていました。



ちょっと期待が大き過ぎたせいか、物足りなさばかりが残りました。

2時間強の尺に収めるには盛り込み過ぎで、設計技師・堀越二郎の伝記としても、結核を患った女性との悲恋物語としても中途半端。かといってどちらか一方のみにしてもつまらなかったであろうことは確か。難病ヒロインとの悲恋物語としてはあまりに出来過ぎの平凡な内容だし、また、「戦闘機」の設計者ではいくら本人の思いが純粋であったとしても物語の主人公として共感を得にくいですし。

とにかく、どう描いたとしても、この題材では無理があったのだと思います。それは作り手側も充分に分かった上で「作りたいものを作った」ということなんでしょうし、「戦闘機オタクでありながら、戦争は絶対反対」という宮崎駿監督が自ら抱える矛盾をそのままストレートに表現しているのはよく分かります。宮崎監督と同じ矛盾を抱えている人にはしっくり来るんでしょう。


とは言うものの、やはり宮崎作品が優れているなぁと思えたのは、その画面構成の見事さ。どのシーン、どのカットも、1枚の「絵」として成立しているのです。これは黒澤明監督作品にも言えることですが、たとえ内容に欠点があっても、「絵」としての完成度が高ければ、それだけでも充分に「映画」として観られるものになるのです。これは映画ならではでしょう。

他にも良かったと思えたのは、プロの声優でない役者さんたちの吹替。主人公の声を担当した庵野秀明さんは、声質自体は役に合っていたものの、あまりに下手過ぎて聞くに堪えなかったのは本当に残念でしたが、他はほぼ全員が役にも合っているし、演技も自然でグッド!

宮崎作品でプロの声優を使わないことに批判的な人も多いですが、僕は逆。どうも日本人は歌舞伎や大衆演劇といった昔ながらの文化の影響か、大げさな舞台劇調の演技こそが「上手い」のであり、自然な演技は「棒読み」でしかないと評価する人が少なくないんですよね。実際に日常生活で発する言葉なんて日本人に限らず大抵はみんな「棒読み」なのに。プロの声優の演技も(自然な人もいますが)その多くが大げさ且つ不自然で僕はどうしても好きになれないんです。これは完全に好みの問題なんでしょうけど。