「一命」('11) | Marc のぷーたろー日記

「一命」('11)

滝口康彦さんの小説「異聞浪人記」の2度目の映画化作品です。主演は市川海老蔵さん、共演は瑛太さん、満島ひかりさん、竹中直人さん、青木崇高さん、新井浩文さん、波岡一喜さん、役所広司さん他。時代劇初の3D映画です。

Wikipedia「一命」


何で今さらリメイクしたんだろ?

最初の映画化作品「切腹」('62) を観たことがないので、それと比較することは出来ないのですが、今の時代にこの映画を作る意味が分からなかったのです。

あまり良い評価を聞いていませんでしたし、実際に観ても (悪くはないものの) 特にこれと言って「良い」と思える部分の見当たらない映画だったのですが、それ以前に、こんな「武家社会の欺瞞」や「武士の面目や誇りのバカバカしさ」なんていう使い古された手垢のついた題材を、今さら誰に見せたくて作ったんでしょうか?

ジェレミー・トーマスがエグゼクティブプロデューサーで、最初から海外での上映を前提にした映画なので、海外の人に見せたかったのかも知れませんが…。海外の映画賞狙いも露骨ですし…。

例えば、同じ三池崇史監督による時代劇リメイクとしては昨年の「十三人の刺客」('10) がありますが、これはリメイクに当たって最後の斬り合いシーンをド派手にスケールアップするといった改変が加えられており、(良し悪しは別として) リメイクに意味がありました。

ところが本作は特に現代向けに改変されたと思われる部分が見当たらず、市川海老蔵さんが主演であることと3Dであることくらいしか「リメイクの意味」として考えられるポイントがないのです。三池監督の演出も、とても三池作品とは思えないくらいオーソドックスで、いつもの「おふざけ」が全くありませんし。

ところが、その数少ないリメイクのポイントがことごとくダメダメダウン

まず、3Dは全くの無意味。これで3D料金を取るのは詐欺同然。金を返せと言いたくなります。確かに雪の降るシーンは立体的に見えましたが、その立体感があまりに不自然で嘘っぽく見えてしまっており、映画としては逆効果。

また主演の海老蔵さんは確かに存在感はあるし、時代劇の所作は安心して観られるのですが、役に対して (見た目が) 若過ぎるし、歌舞伎調の大仰な演技が浮きまくり。この人の映像作品はこれまでも何作か観ていますが、単に「演技が下手なだけ」なんだということを確認しただけでした。

それに他のキャストもイマイチぱっとせず。

瑛太くんは熱演していましたし、悪くはないのですが、そもそも役柄に魅力がないので、その熱演が活きていません。

満島ひかりちゃんは、薄幸な雰囲気は合っていますが、時代劇の演技に慣れてないせいか、あまりにぎこちなくて観ている方が辛くなるほど。

出演者で印象的だったのは青木崇高さんくらい。昨年の大河ドラマ「龍馬伝」('10) でも好演していましたが、彼の堂々とした大柄な体躯とよく通る声は侍役にピッタリ。1980年生まれとまだ若いですが、今後ますますの (特に時代劇での) 活躍が期待されます。


とにかく、「武家社会の愚かしさのために不幸な境遇に追い込まれた浪人が、怒りのぶつけどころが分からなくなって、ぶち切れて逆恨みした」だけの話を、21世紀の今見せられても「何だかなぁ」としか思えないでしょう。