「生きものの記録」('55) | Marc のぷーたろー日記

「生きものの記録」('55)

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核兵器の恐怖を扱った黒澤映画です。主演は三船敏郎さん、共演は志村喬さん、千秋実さん、東野英治郎さん他。

Wikipedia「生きものの記録」

いろいろと違和感や消化不良は残りましたが、考えさせられる映画でした。

確かに、主人公の「狂気」とも言える被害妄想の理由をもっとしっかり見せてくれたほうが説得力があったような気はします。しかし、それでも敢えてその点をぼやかすことによって、実は誰でも同じような不安や恐怖を感じているのに、感じていないふりをしているだけと、観ている側に思わせるような効果があったように感じました。

ただ、主人公のキャラクターを、当時の「小金持ち」の男としては普通なのかもしれませんが、あれだけ外に女を囲って子供まで産ませているような身勝手な男に設定していることに、現代日本人としては違和感を感じますし、そのためにテーマがぼやけて、単なる「家族の肖像」を描いた映画のようになってしまった部分はあったと思います。

核兵器の恐怖というテーマをもっと強くアピールするならば、かつては理想的な良き夫、良き父だった主人公が、ある日突然、被害妄想から常軌を逸した行動を取り始めるという設定にした方が、より一層「悲劇」が浮き彫りになったと思うんです。

この映画の主人公のキャラクターでは、ただ身勝手なだけのように見えてしまって、漠然とした恐怖感から被害妄想、そして狂気へ至る過程に、共感や憐れみを感じにくいんです。

しかし、映画の中での「夫の言いなりで、よよと泣くだけの妻」や「情に流されるだけで思慮の浅い次女」の描き方を見ると、当時はこんな身勝手な男でもそれが普通と受け取られていたんだなぁと、わずか 50年強の間に世の中の価値観ががらっと変わってしまったことを感じます。

さて、この映画は、内容もさることながら、当時 35歳だった三船敏郎さんの初の老け役も見所の 1つです。

さすがに現在のカラー&ハイビジョンで撮影されていたら、単なるコントにしか見えないでしょうが、モノクロ映画であるおかげで、少なくとも老けメイクに違和感はありません。

それよりも、この映画以前はワイルド&タフな男らしいイメージだった三船さんが 70代(?) の老人を演じていること、そして言われなければ三船さんとは気づかないほど、当たり前のように「老人」に見えることには驚愕しました。

三船さんはさほど演技が巧いほうではないですが、それでも身のこなしや表情などは完璧に「老人」。また序盤の頑固ジジイから、中盤のやつれきった老人を経て、最後に「恍惚の人」に至るまでの役作りは見事としか言いようがなく、あとはもう少しセリフ回しが良ければ完璧なのにとちょっともったいなくも思うくらい (^^;;;


というわけで、不満な点もあるのですが、一見の価値がある映画です (^^)v