「闇の子供たち」('08) | Marc のぷーたろー日記

「闇の子供たち」('08)

タイを舞台に、児童売買春や臓器移植を目的とした子供の人身売買を描いた社会派映画です。主演は江口洋介さん。共演は宮﨑あおいさん、妻夫木聡さん、佐藤浩市さん、豊原功補さん他。

映画「闇の子供たち」公式サイト

正直なことを言うと、評価の難しい映画でした。

まず注意しなければならないのは、この映画がノンフィクションではなく、あくまで「事実に基づいたフィクション」であるということ。ノンフィクションであるかのように言われていますが、この映画の内容はあくまでフィクションであり、特に心臓移植絡みのエピソードは「事実に基づかない」完全な創作と言われています。

Wikipedia「闇の子供たち」

そういった事実に基づかないとされる要素があるためか、タイでの上映が中止になったそうですが、それは仕方がないでしょう。何も知らずに観た観客は、この映画で描かれたような心臓移植が本当に行なわれていて、そのためにタイで無辜の子供たちが殺されていると本気で信じてしまうのではないでしょうか? これはタイという国に対するイメージを悪くしますし、タイの国民が憤りを感じるのも当然です。

とは言え、主に外国人を相手にした児童売春、人身売買はタイに限らず世界各国で実際に行なわれており、その問題を真正面から扱ったという点では充分に評価して良いと思います。

ですので、「深刻な問題を広く社会に知らしめることに成功した」この映画の存在意義を否定するつもりはありません。しかし純粋に映画として観た場合の「出来」については大いに疑問を感じています。むしろ僕はこの映画を否定したいです。

事実とされていない心臓移植のエピソードを前面に出した「創作」部分にも疑問を感じますが、それ以上に不快に感じるのは「性描写」。児童買春する外国人客を醜く描くことで、問題の悲惨さや重大さをアピールする意図は分かります。しかし、それでも性交のシーンを生々しく描く必要があるとはどうしても思えないのです。いくら演技とは言え、子役にあんなことをさせていいのでしょうか? 充分に配慮したと製作者側は述べていますが、「配慮」で済むようなものではないと思います。

そして映画として最も「不出来」なのは、登場人物のキャラクター造形が浅薄な上に、ストーリー展開が唐突で意味不明の部分が多いこと。

特にラストの銃撃戦のシーンは、そのシーン自体の必要性も分かりませんし、仲間を裏切った男の行動も不自然で理解不能です。しかもその後、何事もなかったかのように売春宿に警察とともに乗り込んで子供たちを救い出すシーンに繋がるのは「?」しか頭に浮かびませんでした。この子供たちを救出するに至る過程が一番重要なのに、そこがすっぽりと抜け落ちている…。訳が分かりません…。

また、最後になって明かされる主人公 (江口洋介さん) の秘密は、問題の根深さや「皮肉」を表したかったのかもしれませんが、この映画に必要な設定だとは思えません。観終わった後に不快感を残すだけ。

そして追い討ちをかけるように致命的に失敗していたのは桑田佳祐さん書き下ろしの主題歌。歌詞は映画の内容に合っていますが、曲調も歌唱スタイルも全く映画の世界観に合っていないのです。これは桑田さんが悪いのではなく、そもそも桑田さんに主題歌を依頼する方が間違い。桑田さんの歌は好きですし、この主題歌も曲自体はいい曲だと思います。でも桑田さんの作る曲のスタイルや歌唱のスタイルがそもそもこういった社会派の映画にそぐわないことは素人でも分かるのに…。

とにかく多くの点で残念な映画でした。

結局、問題を扇情的に取り上げて社会に知らしめただけの映画で、それ以上でもそれ以下でもない出来でした。

お勧めはしません。

この映画を観るくらいなら、関連するルポルタージュなどを読む方が遥かに価値があるでしょう。

僕の感覚では、この題材を映像化するのであれば、江口洋介さん、宮﨑あおいさん、妻夫木聡さんの 3人をナビゲータにしたドキュメンタリー映画にした方が良かったんじゃないかと思います。