「タイヨウのうた」('06) ※映画版&ドラマ版 | Marc のぷーたろー日記

「タイヨウのうた」('06) ※映画版&ドラマ版

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2006年に話題になったラブストーリーです。YUI さんと塚本高史さん主演の映画版と、山田孝之さんと沢尻エリカさん主演のドラマ版の両方を観ました。

Wikipedia「タイヨウのうた」

正直なことを言うと映画版もドラマ版も僕には評価が難しいです。

まず「タイヨウのうた」という物語の基本設定であるヒロイン雨音薫の病気「XP (色素性乾皮症)」の描写がどうしても気になります。随分以前から XP についてはドキュメンタリー番組などで知っており、単に「紫外線に当たることができない」というものではなく、手足の麻痺や知能障害を伴う病であることも知っていました。これらの点については、木村了くんが XP 患者の少年を演じた映画「ムーンライト・ジェリーフィッシュ」('04) ではきちんと表現されていますが、一度でもそのような「XP 患者」の姿を観てしまうと、「タイヨウのうた」で描かれる XP 患者の姿はあまりに「キレイごと」過ぎて、実在する XP という病気を、単に物語を盛り上げるためだけに利用しているようにしか見えないのです。特に映画もドラマも薫を演じた女優の歌手活動の宣伝目的という製作者側の意図が露骨に見えてしまうために、ますます素直に物語を楽しむことができないのです。

とは言いつつも、それでは作品の感想を云々する以前に話しが終わってしまうので、ここから先は「タイヨウのうた」で描かれる XP は本当の XP ではなく、「いま、会いにゆきます」('04) の市川拓司さんが「ただ、君を愛してる」('06)「そのときは彼によろしく」('07) で描いたような「不思議な病気」と考えて、感想を書こうと思います。

今回映画版とドラマ版を続けて観たのですが、あまりの違いにまず驚きました。同じように難病のヒロインを描いたラブストーリーで、映画とドラマがほぼ同時期に作られた「世界の中心で、愛をさけぶ」('06) も、映画とドラマで作風は違いますが、それでも基本的なストーリーラインや登場人物のキャラクターはほぼ同じでした。それに対して「タイヨウのうた」はヒロインの病気と登場人物の名前が同じくらいで、それ以外の、例えば登場人物のキャラクターですら全く違うものになっているのです。

ここまで違うと、もはや比較に意味がないのかもしれませんが、それでも映画版を観た人がドラマ版を酷評するのは納得できます。

映画版は、穏やかで優しい温かな空気に包まれたような、ふわっとした世界観で、ヒロインを演じた YUI さんの透明感のある雰囲気と相まって、ファンタジーのような印象を与えます。また YUI さんの歌の魅力が前面に出ており、意地悪な見方をすれば、主題歌「Good-bye days」の長尺の PV とも言えますが、とにかく YUI さんの歌の使い方が絶妙で、「音楽映画」としての出来はとても良いのです。

一方のドラマ版は、はっきり言ってしまうと、韓国ドラマか昼メロのような「ドロドロ愛憎劇」になってしまっている上に、リアリティのない、突っ込みどころ満載の内容。拒否反応を示す人が多いのも当然です。

映画版からどうしてここまで作風が変わってしまったのかは疑問です。ドラマ版も 4話くらいまでは、コミカルで明るく爽やかな青春ドラマに切ない恋を交え、映画版とは異なる独自の作品として悪くない出来だったのですが、5, 6話あたりから、急に孝治 (山田孝之くん) の暗い過去や元恋人との三角関係、スキャンダルによる芸能界の足の引っ張り合いなど、様々なドロドロ要素が前面に出て来たり、素人がいきなりメジャーデビューするなどの非現実的な展開が続いたりで、かなりシラケてしまいました。元々のストーリーでは連続ドラマ 10話分を作るのが難しかったのでしょうが、それならばもう少し周りの人々の心情を丁寧に描写すれば良かったと思うのです。

映画版がヒロイン薫の「生き様」をシンプルに描いていたのに対して、ドラマ版は孝治をはじめとする周囲の人々が薫と出会って夢を持って前向きに生きるように変わっていく姿も描こうとしていたようですが、その割に描写は中途半端。薫の両親の描き方も充分とは言えませんでしたし。

そして、もし周囲の人々の姿を丁寧に描くのであれば、周囲の人々とともに「残される立場」である孝治の目線でドラマを展開した方が良かったと思うんです。ナレーションをはじめ、物語を薫の目線で展開したことが、このドラマの描きたいことが曖昧になってしまった原因なのではないかと僕は思います。

ただ、映画とドラマで主人公である薫と孝治のキャラクターを全く違うものにしたのは面白いアイデアだと思いました (ドラマ版の方は設定に無理矢理なところはありましたけど)。

映画版の薫 (YUI さん) は、まさに「ピュア」を具現化したようなキャラクター。ふわっとして、現実感のない、天使のような妖精のような女の子。YUI さんの演技はお世辞にもうまいとは言えず、「ちょっとそれは…」と思うシーンも多々ありましたが、独特の雰囲気と、圧倒的な歌唱力で全てを帳消しにしていました。とにかくラストの「Good-bye days」の素晴らしさには泣きました (ToT)

一方のドラマ版の薫 (沢尻エリカさん) は、この手の物語のヒロインとしてはちょっと異色の、気の強い、生意気な女の子。沢尻エリカさんの個性にも合っていて、それなりに魅力的なキャラクターでしたが、沢尻エリカさんのファン以外の視聴者には共感を得にくかったように思います。その上、常に「ばっちりメイク」+「豊満ボディ」で、キャラクターの設定上違和感があったことは確かです。ここはもう少し改善の余地があったでしょう。

また歌唱力の点でも、沢尻エリカさんでは物足りないものがありました。プロの歌手でない女優としてはかなり頑張っていたと思いますが、聴く人を強く惹き付けるはずの「薫」の歌唱力の表現には至っておらず、これもドラマの説得力を落としていた原因。

それでも沢尻エリカさんの演技自体は悪くなく、特に 3話の終盤、孝治 (山田孝之くん) への想いを抑えられなくなった薫が主治医 (山本圭さん) の前で
これ以上好きになったら…、私、どんどん弱くなる…。ずっと生きたいと思っちゃうよ…。叶わない夢、見ちゃうから…。
と涙ながらに吐露するシーンはさすがと思わせるものがありましたし、ここは泣きました (ToT)

次に孝治について。

映画版の孝治 (塚本高史さん) は、とことん屈託がなくて、バカで下品だけれど愛すべき純粋な高校生。映画を観る前は、実年齢通りに見える塚本高史さんで「純粋な高校生」役ってどうだろう? と疑問に思っていましたが、なかなか好演していたと思います。キツい顔立ちなので、若干の違和感はありましたが、ヘタレな男の子の感じがよく出ていました (^^)

ドラマ版の孝治 (山田孝之くん) は、表向きはごく普通の明るい少年だけれども、どこか暗い影を抱え、人生に諦め切ったような厭世観を持った、すさんだ少年。それが薫との出会いで、かつてのように前向きに生きようと変わっていくわけですが、ストーリーはともかく、山田くんの演技は申し分ありませんでした。特に、このドラマの前に演じた当たり役 (朔太郎@セカチュー & 亮司@白夜行 ) とイメージの重なる役ではありますが、声のトーンを少し太めにすることで、孝治の持つ「雑草のような逞しさと包容力の大きさ」を巧みに表現しており、細かい技法ですが、さすがの表現力だと思います。それに「ホスト」や「ゴレンジャー」をはじめとするコミカルなシーンの巧さも光っています (^^)

そして山田くんにとっては定番過ぎて全く新鮮味はないのですが、やはり「難病のヒロインを献身的に支える青年」をこれほど説得力を持って演じられる役者は山田くん以外にいないと改めて思わされました。特に 3話の観覧車の中で薫を太陽の光から必死に守るシーンは山田くんならではでしょう (^^)v
山田くんはこういった役が確かに「上手い」し「ハマる」んですけど、そればっかりだと、役者としての幅を限定しかねないですし、しかも、このドラマの次に撮ったのが、役のイメージがまるっきり重なる「そのときは彼によろしく」('07) っていうのが…。でも既に山田くん本人もこの手の役には飽きているようですし、また昨年「クローズZERO」('07) でイメージチェンジにも成功したことだし、心配はしていませんが、それと同時に、この手の役をもう二度とやらないんじゃないかと思うと、ちょっと寂しい気もしたりして (^^;;;

因みに山田くんとエリカちゃんの共演作としては「タイヨウのうた」の放送後に公開されヒットした映画「手紙」('06) がありますが、撮影自体は「手紙」 の方が先。でも作品の系統が全く違うのに、どちらもエリカちゃん (の役) が山田くん (の役) に一方的にアプローチするのに山田くん (の役) がつっけんどんな態度を取るという展開が全く同じなのが面白い (^^)
その他のキャストで印象的だったのは、映画版で薫の父を演じた岸谷五朗さん。ぶっきらぼうで粗忽な中に娘への愛が溢れている感じがいいです (^^)

それからドラマ版で音楽プロデューサーを演じた要潤さん。本来持っているクールで大人っぽい雰囲気が活きてました (^^)

それに山田くん主演ドラマの常連・田中圭くんの「メガネキャラ」も面白かったな (^o^)


ドラマ版は長尺で登場人物も多い分、それなりに楽しむポイントがありましたが、やはり作品全体としての出来は映画版の方が上でしょう。特にドラマ版出演者のファンでないならば、「タイヨウのうた」としては、映画版だけ観れば充分だと思います (^^)

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