「地下鉄(メトロ)に乗って」('06) | Marc のぷーたろー日記

「地下鉄(メトロ)に乗って」('06)

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浅田次郎さんの代表作を堤真一さん主演で映画化した作品です。共演は岡本綾さん、大沢たかおさん、常盤貴子さん他。


嫌いではない映画です。


でも、万人には受けないだろうなぁと思います。

まず突っ込みどころ満載のタイムパラドックスの描写を気にせずに、純粋にファンタジーとして楽しめる人でなければ、視聴そのものが厳しいでしょう。

こういった世界は、いろいろな矛盾点や理屈に合わない点があっても、小説で読む分には気にならないものですが、映像化すると、矛盾点も具現化されてしまって「目立って」しまうんです。

もう 1点は、浅田次郎さんの作品に共通して言えることですが、基本的に「男にとって都合が良すぎるストーリー」であり、ひどいときには「中年男の妄想?」としか思えないエピソードもあり、そこでシラける人も少なくないと思います。特にこの映画で気になったのは、ヒロイン (岡本綾さん) の最後の選択。作り手側は感動のシーンとして作ったんでしょうが、僕は「う~む…」としか言いようがありませんでした。

そして僕がどうしても気になって仕方がなかったのは、「今」の時代設定がいつなのか? ということ。

主人公が 40代前半ということから、「今」は昭和 39年から 30年も経っていない、'90年代初頭のはず。それなのに携帯電話が当たり前のように使われていたり、電車の中のポスターなどはまるっきり 21世紀。

原作は 1999年に出版されたので、恐らく原作では問題ないんでしょうが、映画では、こだわりがなさすぎたように思います。こういったファンタジーは、ファンタジー以外の部分をリアルに描写しなければ、物語自体が完全な「嘘っぱち」になって説得力が全くなくなってしまうのです。この「ファンタジーの基本」を作り手側が何故守らなかったのか、これが残念でなりません。

このように非常に不満な点が多いため、感動するには至らなかったのですが、それでもこの映画を「嫌いではない映画」と評したのは、メインとなるストーリーラインと出演者の好演のためです。
ただ、出演者では唯一、主人公の担任教師役を演じた田中泯さんの演技に違和感を感じました。原作を読んでいないので、もしかすると原作のイメージどおりなのかもしれませんが、とにかく不気味なだけで、この役が持っている (はずの) 人間的な温かみが全く感じられず、そもそも何故この方をキャスティングしたのかも分かりませんし、彼の不自然に重厚感のある(?)大仰な演技も全く納得がいきませんでした。
ストーリー自体はかなりベタでありがちですし、タイムスリップも地下鉄も使わなくてもストレートに表現できる内容。それを敢えてノスタルジーに浸らせるように作ったところは、感傷的になりがちな中年男の心を掴むツボを押さえています。

また、堤真一さんと大沢たかおさんの演技は期待通りの素晴らしさ。この 2人の演技を観るだけでも充分にお金を払うだけの価値があるように思います。


このように、この映画は中高年男性向けの映画ですので、僕は嫌いではないのですが、女性や若い男性にはあまり積極的には勧められない映画です (^^;;;