NHK スペシャルドラマ「海峡」 | Marc のぷーたろー日記

NHK スペシャルドラマ「海峡」

実在 (現在もご存命) の日本女性をモデルに脚本家のジェームス三木さんが書き下ろした平成19年度文化庁芸術祭参加作品です。主演は長谷川京子さん。共演は眞島秀和さん、豊原功補さん、上川隆也さん、橋爪功さん、津川雅彦さん、コ・ドゥシムさん他。

NHK「海峡」公式サイト

NHK のドラマだけあって豪華なキャストと丁寧な作り、しかも全3話とコンパクトにまとまっていることもあり、とても「観やすい」ドラマでした。

ただ「ドラマ」としては若干中途半端な印象でした。

太平洋戦争末期からの日本と朝鮮半島を巡る激動の 30年の歴史を背景にしている割にはドラマ全体が軽い。また逆に運命に翻弄される 2人の純愛物語にしては、現実的過ぎて夢がない…。当時の実際の映像を挿入する演出や、過去と現在をモノクロとカラーの映像で交錯させる演出も、意図は分かりますが、映像の使い方が安易で安っぽく見えてしまっているし。

主演の長谷川京子さんは相変わらず美しく、大熱演していますが、現代風の顔立ちのため、とても「その時代」に生きている女性には見えなかったのも気になりました。一方、相手役の眞島秀和さんの古風なルックスはかなりリアリティはありましたが、若干演技過剰で違和感がありました。

また最終回である第3話は、エピソードを盛り込みすぎたためにご都合主義的な展開に終始し、「?」となることが多く、第2話までがなかなか良かっただけに非常に残念。

それでも僕がこのドラマで「なるほど」と思えたのが主人公 2人のキャラクター設定。

ヒロイン吉江朋子 (長谷川京子さん) は日本統治下の釜山で生まれ育った日本人女性。裕福な家庭に育ったお嬢様で、朝鮮語は全く話せないが、日本の本土には行ったことがないため、むしろ「日本」は遠い存在。両親を相次いで失い、戦後、ほとんど身寄りがない状態で日本に引き上げることになり、朝鮮はもちろん、日本にも「居場所」がない。

一方の木戸俊二こと朴俊仁 (眞島秀和さん) は生まれたときから「日本人」として生きて来た青年。日本軍の憲兵として懸命に働いていたが、終戦と同時に「日本人」であることを否定され、日本にも朝鮮にも「居場所」がない。

このように、複雑な日本と朝鮮の歴史のうねりの中で日本にも朝鮮にも「居場所」のない 2人を主人公にしているところが新鮮でした。これまでも当時の日本と朝鮮の関係を描いたドラマや映画は数多くありましたが、このドラマの主人公 2人のような人物を観たことがほとんどなかったのです。

日本が朝鮮半島を統治していたのは 30年以上にも渡っていたため、朋子のように日本人ではあるけれど日本よりも朝鮮に「故郷」を感じる人や、俊仁のように朝鮮人ではあるけれど「日本人」として生きて来た人も少なくないはずなのです。それなのに今は、前者のような日本人は「そもそも存在しなかった」かのような空気が日本にはありますし、後者のような朝鮮人は戦後60年以上が過ぎた現在でも韓国において「親日」として処罰の対象とされているのです。つまりどちらの存在も、それぞれ日本と韓国が「なかったこと」にしているような気がしてならないのです。

とにかく、日本を「加害者 = 悪」、朝鮮を「被害者 = 善」という単純な図式で描かず、当時の朝鮮でともに暮らしていていた日本人と朝鮮人の間の微妙な感情を丁寧に描いており、特に第1話での描き方は秀逸だったと思います。

それだけに第3話の安直な展開、特に「親日」として韓国で生きていくことはほぼ絶望的なはずの俊仁のその後の描き方には「?」と感じました。とは言っても、実話を基にしているわけですから、この展開もある程度「事実」なんでしょうが、単に「事実は小説よりも奇なり」ってことなんでしょうか…。

さて、脇まで豪華キャストだったこのドラマで僕が注目したのは、俊仁の母を演じたコ・ドゥシムさん。「花より美しく」('03) や「雪の女王」('06) で日本でもおなじみですが、日本語の台詞のうまさには驚きました。「ネイティブ」ではありませんが、当時のその年代の女性なら、この程度はうまく話せたはずといったリアリティのある「なまり」具合でしたし、なにより「聞き取りやすい」のが素晴らしい。

いろいろと不満な点はありましたが、現在韓国のドラマや映画を楽しんでいる日本人なら一度は観ておくべき作品だと思います。

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