「父と暮せば」('04) | Marc のぷーたろー日記

「父と暮せば」('04)

バンダイビジュアル
父と暮せば 通常版

劇作家・井上ひさしさんの傑作舞台劇を、宮沢りえさん、原田芳雄さん、浅野忠信さんの出演で映画化した作品です。

昭和23年夏の広島を舞台に、娘 (宮沢りえさん) とその前に亡霊となって現れた父親 (原田芳雄さん) のさりげない日常的なやり取りの中で、被爆しつつも「生き残ってしまった」者の苦悩と再生を描いた作品です。

僕はこの作品の舞台劇を随分前に観て深い感銘を受けたので、どんな風に「映画」になっているか「期待半分、不安半分」でこの映画を観ました。その上で感想を言うと「舞台劇の方が良かったかな…」。

宮沢りえさんの演技も原田芳雄さんの演技も想像以上に素晴らしく、できればこの 2人による舞台を観たいと思うくらい。また原爆の描写や廃墟と化した広島の映像に CG を使うなど、映画らしい表現を使うことで、かなり「分かりやすい」作品に仕上がっていると思います。舞台劇の映像化は、ときとして「映像」として単調になりがちなのですが、この作品については「映画らしい映像表現」が適切に使われており、きちんと「映画」になっていると思います。

それにもかかわらず、この映画よりも舞台劇の方が良いと感じた理由は、そもそもの物語の性質にあるのではないかと思っています。

この物語は、平凡な「日常」風景の中に亡霊となった父親という「非日常」が紛れ込むという不思議な世界が基本にあります。この物語世界を表現するのには、映画という具象的な表現形態よりも、抽象性の高い舞台劇の方がしっくり来ます。またその一方で、さりげない日常の描写については、「カット割」という監督による「観客の視点の強制」がある映画の表現方法よりも、観客が好きなところに視点を向けられる舞台劇の方がよりリアルな印象を与えることができます。

このような、そもそも舞台向きの作品世界を敢えて映画化したことよる違和感が最後まで拭えず、舞台劇を観たときのような感動を得ることができなかったのです。

しかし、繰り返しになりますが、宮沢りえさんと原田芳雄さんの演技は本当に素晴らしいです。宮沢りえさんは独特の透明感で愁いを帯びた可憐な乙女の姿をリアルに表現していますし、原田芳雄さんはいい具合に「枯れた」男の色気で飄々とした、それでいて包容力のある父親を的確に演じています。

原爆という厳しい現実をベースにしながら、非現実的な表現を使っているこの作品で、現実世界を生きる娘役にファンタジー性の強い宮沢りえさんを配し、一方亡霊という非現実的な役を肉感的で「生」のイメージの強い原田芳雄さんに演じさせている点も興味深いですし、その目論見は見事に成功していると思います。

できればこの 2人で舞台を演って欲しいです。もしそんなことがあれば是非観に行きたい。

ところでこの作品は全編、昭和20年代当時の広島の言葉を使っているため、今の日本人にはところどころ意味が分からないところがあると思います。僕も正直なことを言えば「字幕が欲しい」です (^^;;;