職場でのこと。



Yさんは、あらかたの献立には、手をつけず、捨てる。 


それは一度や二度ではなく、ほとんどがそうだ。

 今回もそうするのだろうか。


実際のところはどうなのか、その様子を眺めていた。

Yさんは60代半ばの女性で、ほとんど白髪の長い髪を無造作に束ねている。



  献立表や、今まさに棄てられようとしている食事を見れば、献立は何であったか、手をつけたものがあったのかは、一目瞭然である。


 フライが見える。魚を揚げたものだ。 


「今日は、どうでした?」と、水を向ける。 


 「私は、フライの魚は食べないし…」とYさん。


 「魚のフライですね。 魚の揚げたものが多いですもんね、ここは」 


 「これは何だろう…鶏肉と野菜を煮たものも好きじゃないからね」


 なるほどね。じゃぁほとんど食べない感じですね。


 「味噌汁とご飯は食べたけれど」 


 「お金を払っていて、ほとんど手をつけないのも…何だか…ねぇ」

 食べられるものが出ないから、とYさんが続ける。 

 しょっちゅう出かけているけど、外出先で食べたりはしないのだろうか。 

 「出先で好きなものを食べて来たりはしないんですか?」 


 「買い物だけして、帰るからねぇ」 


 遥々、あちこちへ出かけてゆき、決まって牛乳を買って帰ってくるのだ。  


 「好物という言うのかな…Yさんは、何が好きなんですか?」 


 「私はね…ケチャップ味のご飯が好きなんです。オムライスが一番好きだわ」


 それこそ外出先で食べたりはしないのだろうか。

巷には、評判の店もあるのだから。 


 Yさんは、市内の地理に詳しい。あそこの✕✕通りと△△通りが交差するところにはコンビニがあって、

郵便局がある等ということがスラスラ出てくる。


運転したこともなければ、住んだことがないエリアについても。 

その記憶力は目を見張るものがあり、頭の中に市内の地図と路線情報があるのではないかと思わせる。 


 彼女の主な交通手段はバス。

バスの車窓から見える流れてゆく眺め。

それを記憶しているのだろうが、それが驚きだ。

 そうした地理的な話しになると、ダムが決壊したように話し出す。早口で、次から次へと。

やがて、話題は散乱してゆく。


それはYさんの特性を垣間見せた。



と、その時、話が戻った。「食べて帰ることはしないなぁ。必要なもの(牛乳)を買うだけ」あちこちへ出かけて、牛乳を買って、帰宅する。

それから、遅い夕食を摂る。


それがYさんの中の決まり事になっている。

牛乳は、同じ銘柄だ。

「この前は、Aさんにうるさく怒られた」といい、

「Aさんは、いつも言ってくる」そう、口にした。


Aだけでなく、施設の長からも言われているはずだ。


食事を片付けることで、早めの帰宅を促そうという指し図が出ていた。


Yさんは、早口で何か言っている。


「みんな無事に帰るか心配しているんですよ」と僕。

Yさんにあれやこれと言ったところで、出かけない、早く帰るということは、無いだろうし、こちらで食事を片付けて食べ損なっても、帰宅時間が早まりはしないだろう。


22時前..戻り時間もYさんの中では、揺るぎなく設定されているように思われる。


意識してか、無意識かはわからないが、また話題が変わる。


「◯◯さん(僕に)、私はね…オムライスが好きなんですよ」




“オムライス”を献立に提供している事業所もあるだろうが、“卵は一人当たり1個”といった考えがあるとすれば、難しいメニューだろう。


大抵なら、目玉焼きかスクランブルエッグになるだろう。または卵サラダにするか。


卵1個分のスクランブルエッグの少量と言ったら!



果たして出来るのか、出来ないのか。


ご飯1膳分と卵1個でオムライスを作ってみた。


もちろん、提供したものではない。


(ミニミニ大作戦の)小さなオムライスには、デミソースのミートボールが合いそうな気がした。


おそらくミートボールを手作りしているところは少ないだろうな。





いずれにせよ、オムライス&デミートボールの一皿が出来上がった。それは自分だけの、美味しい“練習”だ。