グラタンを作ったのは、ずいぶん久しぶり。
最後に作ったのは、まだ雪があった頃。3月。
知人の弁当屋さんを手伝っていた時だった。
“夜メニュー”に『グラタン』なんて良いんじゃないだろうか。
そう思い、いくつか試作をしていた。
試作といっても、初めて作るというわけではなく、バリエーションを考えていた。
ま、採用はされなかったけど(笑)
20時を過ぎたくらいに来たひとりの女性客。
仕事帰りの雰囲気を漂わせていた。
そのお客さんは、しばらくの間、何を頼むべきか考えていた。
入ったはいいものの、私には頼めるメニューが見つけられないのよ。
もし、パチンと指を鳴らしたら、女優がセリフを言うように、女性も切り出したに違いない。
から揚げをはじめ、フライが多く、
ボリューム感を売りにしている店だから、困惑していたのだろう。
やがて女性は、“小さめの弁当”をひとつ注文した。
その日、帰宅してから、あの人は何が食べたかったのだろうと、ふと思い返した。
トレンチ風のコートの襟を立て、マフラーを巻いて、メニューを見上げていた人。
グラタンを出す弁当屋があっても良いんじゃないか?
そう、本気で思っていた。