ある作品を観たら、次はその脚本家や監督、役者の関わった別の作品を観たみたくなるものである。まるで数珠つなぎのように。
前回:映画『かそけきサンカヨウ』

 

 


【数珠つなぎ経緯】
絶賛インプット期間中と言うことで、目に入るもの、興味を持ったもの全て、時間とお金がフィットすればチェックするようにしている。
今の時代、ちょっくらスマホで検索しようものなら、すぐその広告が隙間スキマに表示され、頭から離れなくなってしまう。そして本来インプットする必要のないもので脳内が覆われてしまう。わたしたちはGoogleに踊らされ、そして生かされているのだ。
DMと呼ばれるものもその一種で、「あなたにオススメの〇〇」名義でバンバン送られてくる。放っておけばいいのに、わたしは未読のまま放置するのが嫌いなタイプ。内容は読まなかったとしても、とりあえずは既読にする。そしてもちろん気になるものは目を通す。するとずっと前から気になっていた大人計画の公演『命、ギガ長スW』のリセールチケットが販売中とあるではないか!日程は明日。空いている。昼にワクチン接種が入っていたが、副反応が出たとしても当日中ではなかろう。即購入。DMだろうと既読にする癖があってよかった。でなきゃ気付かなかったはずだ。

 

 

翌日、ワクチン接種を終え、下北沢へ向かった。劇場はザ・スズナリ。サイズ感的にも雰囲気的にも大好きはハコだ。キャパ200弱くらいでコンパクト、どの席から見ても役者の顔がちゃんと見える。いつか立ちたい。そういう思いもある。

この公演は「W」とついている通り、ダブルキャスト。わたしが見たのは【ギガ組】の宮藤官九郎さんと安藤玉恵さんコンビ。もうひとつの【長ス組】は三宅弘城さんとともさかりえさん。どちらかというと【ギガ組】を観たかったからそれもラッキーだった。

【あらすじ】
(公式HPより引用)
80代で認知症気味の母親エイコと、ニートでアルコール依存症の50代の息子オサム。
貧困生活を送っている2人を撮影するために、ドキュメンタリー作家志望の女子大生アサダが密着していた。エイコの年金を当てにして酒を飲み続けるオサムと、パチンコに依存するエイコ。アサダが撮るドキュメンタリーのVTRを見て、彼女の所属ゼミの教授キシは、ある問題を指摘する。エイコとオサムには、ある秘密があったのだ…。

【感想(ネタバレなし)】
まず吹越満さんが劇場アナウンスしていてとても贅沢。さらに劇中の効果音が吹越さんの声という演出がされていて、それも面白かった。落語っぽいというか。素敵なセットはあるけれど抽象的でどこかはハッキリしないし、小道具もほとんどなくて、ジェスチャー+声の効果音という独特さ。役者の表現力と観客の想像力を試すというお芝居でもあるように感じた。

クドカン演じるニートのオジサンと安藤さん演じる認知症のおばあさん。安藤さんは実年齢が45歳で、ヘアメイクで外見はおばあちゃんに見えるけれど、動きや発声のキレはやはり若く見えるなぁと感じていた。セリフの応酬がスゴイし、動き回るし、そりゃリアルおばあちゃんで演じてたら無理だろうけど。でも考えてみたら、今どきの老人は若くて元気だ。もしかしたらこういう70代、80代もいるのかもしれないとも思ったりしながら見始めた。

そして安藤さん演じるもうひとつの役、ドキュメンタリー作家志望の女子大生アサダが出てきたとき、驚愕した(2役やると知らなかった)。早替えもすごいけれど、もうほんっとうにおばあさんから一変し、むしろ女子大生が過ぎるくらいだった。トーンの高い声、甘えた口調、なぜかエロス(コント寄りではあるけど)も感じた。年齢不詳すぎるし(まだ安藤さんのお年を知らなかった)ふり幅がすごすぎる。その時はじめておばあさんを演じていた安藤さんの凄さを知った。声が違い過ぎたからだ。キレがあって若く感じたとか言ったけれど、女子大生で出している声を聞いたら、到底同一人物と思えない。

クドカンはとにかく楽しそうだった(笑)。どちらの役もハマっていたし、イキイキしていた。醸し出す雰囲気が見ていて心地がいいから好き。最後に出てきた3役目が一番好きかもしれない。

ストーリーは、もちろん面白い。社会問題になっている老老介護の8050問題を軸に、次第にあぶり出されていく闇というか、悲劇というか、喜劇なのか。わたしはドキュメンタリー番組を見るのが好きだが、本当にその一幕を見ているような気分にもなった。撮られる側は自身を切り売りしている。撮る側はドラマチックになるような取れ高や名言を欲しがる。この歪な関係性を見事に風刺しているような気もした。

あとちょっとしたボケのためだけに作られたセットや小道具も好きだったな。松尾スズキさんがつくったのかな。

2人芝居っていいな。大変だろうけど、楽しそう。
共同作業でもあるし、殴り合いのボクシングでもある感じ。
つくってみたい。

【次の作品】
『ドライブ・マイ・カー』か『39歳』