ある作品を観たら、次はその脚本家や監督、役者の関わった別の作品を観たみたくなるものである。まるで数珠つなぎのように。
 

前回はコチラ↓

 

 

 

【数珠つなぎ経緯】

 

前回、目黒シネマで市川準監督の作品を観て、トークショーに出演されていた岩井俊二監督に心を奪われたので、岩井監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』に繋がった。

 

 

公開当時、”花嫁”の入ったタイトルと、主演の黒木華と綾野剛の並びを見て、恋愛ものだと思っていた。だからあまり興味を持つことなく、見ることももちろんなく、時が流れた。でもトークショーで岩井監督を見て、話を聞いて、見るしかないと思った。

Netflixで配信されている岩井作品は他に『スワロウテイル』『ラストレター』があったが、岩井ファンだという友人の勧めもあり、初めましてをこの作品に決めた。


【あらすじ(ネタバレなし)】


主人公である七海(黒木華)は出会い系サイトで知り合った男性と当たり前のように結婚したが、相手のためにとついた嘘がウソを呼び、思いもよらぬ方向へ人生が進んでいく。それには役者であり会社経営者でもある謎の男・安室(綾野剛)との出会いが大きく関係している。結婚式の家族や友人の代行手配業や、子どもの世話、他にも怪しい仕事を抱えている。
結婚が破綻した七海は安室を頼るようになり、その指示に流されていくうちに、女優だという真白(Cocco)と奇妙な同居生活が始める。真白との交流の中で自分の大切なものや人生と向き合っていく、というお話。


【感想(ネタバレあり)】


出会い系サイトが広まったのはこの作品の生まれた5、6年前だっただろうか。その待ち合わせシーンから始まるのはとても興味深かった。わたしはてっきり七海が待っている相手は安室だと決めつけた。そしたら、(いい意味で)本当に普通の男性が現れて、あれよあれと事は進み結婚に至った。しかし七海はSNSでそんな風にいとも簡単に進んでいく婚活に自分自身で疑問を呈していた。ネットで買い物するみたいに結婚相手を手に入れられる、と。
親族や友人の少ない七海は、結婚式に出席者代行を依頼することになる。それを手配しているのが安室であり、うさん臭さ満載の調子ノリの男であった。この出会いをキッカケに、七海の人生は転落していった。どう見ても安室の仕組んだ罠なのに、七海はそれに気付かず、安室に頼り切りになっていく。その時点で、「なんだこの女」「もっと考えろ!」「気付けよ!」といきり立っている自分がいた。正直、わたしにとって七海は嫌いなタイプの女だった。
安室は七海に月100万の住み込みバイトがあると持ち掛ける。少し訝しがってはいたが安室に丸め込まれ、仕事を始める。そこでも「おーい!バカなの??」「絶対ヤバい仕事だって」とわたしは七海を責めていた。そこで自由奔放に生きる真白と出会い、七海は癒されていく。そして何となくふたりの間には友達を越えた、愛のようなものが芽生えていく。「もしかして同性愛の話なの?」短絡的にそう考えてしまった。
しかしそうではなかった。
確かにふたりの間に愛はあったけれど、前向きではなくて、一緒に海に沈んで行ってしまいそうな、危うさを秘めた共同体のように見えた。普通に生きてきて、普通の幸せを手に入れようとした七海と、普通の幸せや当たり前の優しさに触れることに恐れを抱く真白は、パズルのピースのようにピタリとはまりはしたが、輝く未来は生まれなかった。
「優しさにお金を払わないといけない」というようなことを真白が言ったのがとても印象的だった。ボランティアとかやりがいとか、それこそ親切とか、確かに必要だけど、当たり前だと思っちゃいけない。組織に属していれば、少しの自己犠牲があっても、無償で働いたり(サービス残業的な)、仲間に気を遣ったり、そういうことを求められることがある。別にお金がほしくてやっているわけではないけれど、それを受ける側が当然の顔をしてはいけないと、どっちの立場になることもあり得るからこそ、強く思う。
優しさを受け取れることが本当に幸せなことなんだ、と、だから怖くなると、真白は言った。七海は真白と一緒にいたい、笑顔にしたいと思うからこそ、優しく接したし、それが自分の幸せでもあった。
これが恋人や夫婦や、家族や友人の関係の中で、当たり前のようで当たり前でない。お互いの弱さや脆さ、真の悩みや孤独を理解するのは、どんなに気心知れた間柄でも難しい。でも諦めずに向き合おうよ、それが幸せってことじゃないのかな、って何かそんなまとめしかできない。
リップヴァンウィンクルの花嫁は、タイトルからは想像もつかないサスペンスのようであり、恋愛ものの色もあって、ヒューマンでもあり、現代風刺的な要素も入ってる、お得で美しい作品だと思う。


【補足】
 

リップヴァンウィンクル(Rip Van Winkle)の意味を調べてみたところ、

アメリカの作家W.アービングの《スケッチ・ブック》(1819‐20)に収められた同名の短編の主人公。狩りに出かけたリップはキャッツキル山中で不思議な男たち(イギリス人探検家H.ハドソンとその仲間の幽霊であることがのちにわかる)に出会い,彼らの酒を飲み眠りこむ。目覚めて家に帰ってみれば20年がたっており,アメリカは独立していたという浦島太郎風の人物。 アメリカにおいて神話・伝説的人物となり,のちにメルビル,ハート・クレーンなどの詩に歌われ,一方では〈時代遅れの人間〉を指す普通名詞ともなった。

浦島太郎的な話って海外にもあるんだと知った。真白のSNSネームがリップヴァンウィンクルだったが、作品とは強く関連付けられているわけではないらしい。


【次の作品】
 

無理やり数珠つなげるけれど・・・
とても共感度が高く、現代社会をうまく切り取っている作品という切り口で、『ぼくたちはみんな大人になれなかった』について書く。