近所の銭湯に行った時のこと。

赤ちゃんとママが先に入っていた。歩き始めてちょっと経ったくらいの、たぶん1歳くらいの赤ちゃん。ママはきっとわたしよりも若い。ママは赤ちゃんに話かけながら頭を洗ってあげていた。見ているだけで癒される。

親子はお風呂に浸かるフェーズに移行した。

しかしその銭湯は、熱い。おそらく1歳くらいの赤ちゃんには厳しめの熱さだ。勝手に心配しながらチラ見していた。先にお湯をチェックしたママはその熱さに気付き、一緒に入るのは断念し、お湯を少し冷まして赤ちゃんにかけてあげた。

いやぁああああああああ

赤ちゃんは叫んだ。熱さに悶えているというわけでなく、言いたいだけ、って感じ。よく聞く「いやいや期」というやつか。仕方なくママだけが浸かり、洗い場でウロウロする赤ちゃんに目を配っていた。

すでに浴槽に浸かっていたわたしは、「子どもを持つと、銭湯に行くのも一苦労だな…自分の入りたいようには入れなくなるな…」と全世界のママ(パパ)に尊敬の念を抱いた。

赤ちゃんは人懐っこい子で、私の方を見てはニコニコして、手を振るような素振りを見せた。それに気づいたママが「どうも~」と挨拶をしてくれた。すると、赤ちゃんがお辞儀をした。なかなか深めの、しっかりとしたお辞儀。

なんて可愛いんだ!!!

赤ちゃんのお辞儀!!!

足を肩幅に開き、キューピーちゃんのように手を広げたダイナミックなお辞儀。

きっと大人たちのお辞儀を見て、マスターしたんだろう。

よちよち歩きで、言葉もままならない赤ちゃんが、お辞儀だけはしっかりできる。なんて愛らしいシュールさなんだ。

もうわたしは赤ちゃんにメロメロ。ずっと眺めていた。

洗い場にいた赤ちゃんは時たま「あー」「あー」と意味の分からない音を発していた。何か伝えたいことでもあるのだろうか。でも不満は欲求はなさそうな表情である。

すると、浴槽から見ていたママは「声が響くねぇ」と返した。

あぁなるほど。そういうことだったのか。赤ちゃんはいつもと違う、広い銭湯ならではの声の反響を楽しんでいたのか。想定外だった。そしてその返しをしたママを心から素晴らしいと思った。

本当は何を伝えたかったか、正解は赤ちゃんしか知らない。でも生まれた時から同じ時を過ごし、同じ風景を見てきた親子だからこそ、そのやりとりができるのであって、それはきっと正解だ。素敵な正解。

銭湯で素敵な親子に出会った。

そのおかげでいつもよりも長風呂になった。