アベノミクスの経済効果 来年は?
東京大・大学院教授 伊藤元重 経済効果 来年も続くか
米国の元財務長官で現在はハーバード大学教授のローレンス・サマーズが、secular stagnation(持続的ないしは長期的不況)についての発言をして、専門家の間でちょっとした話題になっている。長期的不況論は、1930年代の世界大恐慌を受けて、戦後早い時期に、当時のハーバード大学教授であったアルビン・ハンセンなどが盛んに論じた学説である。簡単に言えば、当時の経済には構造的に長期不況に陥る理由があり、通常のマクロ経済政策では十分に対応できないというものだ。
この考え方が現在の先進国経済でも成り立つかもしれないというのが、サマーズ教授の問題提起であるようだ。いくつかの点が指摘されている。第1に2000年以降、極端な金融緩和策で多くの国で資産価格は急騰したが、それでも経済成長率は極端には高くならなかったし物価も上昇していない。第2にリーマン・ショックと欧州の財政危機は比較的早く収束したにもかかわらず実体経済の回復のスピードは非常に遅い。第3に主要国の政策金利はゼロに近い水準であるが、それでも経済活動は十分に刺激されないでいる。物価上昇率も低く欧州では一つ間違えれば日本で起きたようなデフレになるリスクさえある。
長期的不況が起きるのは、主要国経済が抱えている構造的問題が関わる。高齢化が進む中で、多くの国で人口も減少傾向を示し、将来に向けての積極的な投資が出にくい。国民も将来に対して慎重であり、消費も思うように伸びない。その結果、需要は構造的に不足気味であり、政策金利がゼロ近いところまで下がっても、デフレに陥る懸念が払拭されないのだ。
このような話を聞くとこれまでの日本がその典型だと思わざるをえない。日銀は極端な金融緩和策をとり続けてきた。政府も何度にもわたり財政刺激策をとってきた。それでもデフレから脱却することが難しかった。当時は日本だけの特異な現象かと思われたがリーマン・ショック後は先進国共通の問題として意識されるようになったのだ。
世界の主要国の経済が同じような悩みを抱えるからこそ、今日本で行われているアベノミクスの実験が注目されることになる。「次元の違う金融政策」という第1の矢のインパクトは大きかった。株価や為替レートは瞬時に反応し、日本はデフレ脱却の道を歩み始めた。経済が順調に成長を続ける平時であれば、アベノミクスは強く批判されただろう。しかし、ハンセンの言う長期的不況の状況にあるからこそ海外もアベノミクスの動きに強い関心を持っている。
2013年を振り返ると安倍政権の経済政策はこれまでのところ、非常に大きな成果をあげている。経済成長率は上昇し物価下落は止まり企業業績も大幅に改善し、雇用状況も良くなっている。この流れは14年も続くのだろうか。世界が長期的不況の構造にあるとすればますます成長戦略の成果が問われる。来年も日本経済が、世界中から注目される存在であることを願っている。
(いとう もとしげ)
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/131230/fnc13123003200000-n1.htm