長すぎるネタばれ映画「幕が上がる」の感想がどこにも登録できないので、ここに直接載せます。
本来はキネマ旬報のKINENOTEに登録した「がんばる心を思い出させる青春映画
」(☆ネタばれなし)の後に続くネタばれ部分になりますので、まずはこちらを読んでいただけるとしっくりきます。
これは2/20の讃岐映画祭LV後に書いた感想となりますので、厳密には3回目の感想です
以下★ネタばれ要注意★です。
--------------------------------――――――――――――――
序盤、部長の高橋さおり(百田夏菜子)は部を率いることに自信喪失するシーンがある。なにもかも投げ出して逃げ出したくなることは誰もが経験したことはあるんではないだろうか。幸いにも吉岡先生(黒木華)という神を得た高橋さおりは演出という役割も得て、水を得た魚となる。
しかし悩みはつきることはなくて、次は任された台本が書けないという悩みに直面してしまう。それでも今度は逃げるのでなく、考えに考えて答えを探そうと精神を病むような悪夢を見るほどに努力する。結果的に台本「銀河鉄道の夜」にたどり着くのだが、そこへ至るまでがまたドラマチック。中西悦子(有安杏果)との関係もあって、本作最大の見所といっても決して過言ではない。
部長、演出として全体を見る立場となって、悩みの種類も変わっていく。下級生の明美ちゃん(佐々木彩夏)スランプはその1シーンとして描かれる。ここはコミカルも挟みつつも、先輩と後輩の関係が微笑ましいところで、ムードメーカの明美ちゃん復活シーンだ。
そして今度は神が去る。しかしそこから復帰する模様もまたドラマチック。序盤の関係よりもユッコ(玉井詩織)、がるる(高城れに)との友情、仲間関係も相当深まっていることも示唆してくれる。そして高橋さおりは中西さんへ向けた決意表明もそうだが、人生の転機に決意表明し、周りを引っ張っていく力を持っている。その成長過程を自然に観れるのだから感動するしかないだろう。
以前の百田夏菜子は取り立てて演技が上手いというわけではなかったのだが、それだけに本映画を観ると、圧倒的な成長を実感するしかない。まさに秀逸。手放しで褒めたくなるほどだ。等身大の高橋さおりになりきっていた。それでいて劇中劇の演出も原作者の平田オリザとそっくりと、平田オリザ本人にすら言わしめるのだから、まさに真っ白だったからこその急成長だったのかもしれない。主役の語り役だけに本映画に涙できるのは百田夏菜子の活躍によるところが一番大きい。
中西悦子(有安杏果)は転校生、全国大会を目指すような強豪校からの転校生。その理由は前述の高橋さおりが病むほどの悩みから「銀河鉄道の夜」の台本にたどり着くまでに語られる涙なくして観れない一大ポイントで明らかになるのだが、とにかく最初は陰があり、笑顔は見せてくれない。振り返りシーンが美しいだけだが、その絵自体が陰を帯びている。
中西さんの悩みは深く、一度逃げ出してしまっている。演劇が好きでたまらないけど、周囲のプレッシャーに押しつぶされて自信を失いもはや演劇に関われるわけにはいかないと矛盾する自己暗示に陥っているところにある。
中西さんにとっての神は吉岡先生では決してなく、高橋さおりだった。同じく演劇で悩みを持つが決して逃げることなく回答を探し続ける高橋さおりは、逃げてしまった中西さんを救い出すことになり、そして同時に中西さんは高橋さおりを混迷から救い出す役割を担っている。だからこそ高橋さおりの「銀河鉄道の夜」へとつながり、中西さんは、宇宙は広がり続けて人は一人かもしれないが、演劇を志す大事な仲間は傍にいるということに気づくのだ。つまり同じ志を持つ仲間がいる限りは、必要以上に一人で気負う必要はないことに気づくのだ。
ここは原作にも似たシーンはあるものの、原作の中西さんは東京に何度も通いプロの女優を実際に目指しているという覚悟がある。まさに天才として描かれている。のに対して映画の中西さんは心に弱さを持っている。それが高橋さおりに救われ、演劇の純粋な楽しさを取り戻す過程が素晴らしい、そういう意味で原作ともっとも異なる要素を持つキャラクターだ。原作よりも遙かに複雑な内情が描かれたキャラクターだ。
中西さんには後半はユッコとの関係性にスポットが当たる。さおりとのエピソードにて中西さんの陰が消え、演技に自信を取り戻した中盤と、終盤には笑顔をたくさん見せるようになる。これはやはりユッコとの関係が大きい。
この演劇や他人全般、ユッコという苦手意識を持たれた相手に対する心中が作中で大きく変わる役割を美事にこなした有安杏果もまた本映画における大きな成果だったのではないか。これも原作を読みこなし、中西という人間を追求し、本広監督にもその都度質問をぶつけた有安杏果の努力の賜なのだろう。
ユッコ(玉井詩織)は高橋さおりと仲良し役として描かれる。同じクラスでもある。しかし序盤と終盤ではその関係が大きく変わっているのは演劇部に対する思いの変化が生んだものか、終盤のユッコはさおりの心情を見抜いている。当然、逆もしかり。以心伝心のごとくだ。
ユッコの玉井詩織は中西さんへの嫉妬をうまく表現できていた。序盤から中盤までの変化。織り交ぜる真顔。中西さんが来るまえのユッコはキラキラと笑顔、ところが中西さんとの関わりになると複雑な真顔なのだ。いわば子供っぽさを表現していたのだ。
それが溶け始めたのが、あの吉岡先生が連れてきたビルの光に包まれたシーン。そしてそれに続くさおりとの本音をぶつけるシーンここで自分が輝くだけではなく、周囲も輝かせることの重要さに気づく。その後の、黄色のペンキを塗る中西さんと、緑色のペンキを塗るユッコのシーンはももクロファンならば、ニヤリとする簡単な仕掛けがあるのだが、演出のさおりとの関係性も含めて、非常に深くてつながりを感じる、映画では重要なシーンとなっている。
更にラストにつながる県大会前日のここも全体からして泣けるシーンでは、もう微笑ましくて仕方がないくらいなのだから、中西さんとの関係性はにやついてしまうしかないだろう。それが高橋さおり目線でもあるのだからなおさらだ。
もちろんユッコといえば「銀河鉄道の夜」の主役ジョバンニ役も必見だ。もっとも出番が多く、映画の劇中劇での活躍は目覚ましい。原作に比べ、現実的な受験という要素がほとんど抜け落ちてしまっている映画版にあって、ユッコは特に原作でその心理的影響が強かっただけにキャラが単純化されている部分もあるかもしれないが、その分、さおりと中西さんとの心理的関係はより複雑になっていたのだから、この心情を演じ切れた玉井詩織の役割も大きいというしかない。
がるる(高城れに)は原作通りのキャラ。明るくてオーバーで、静かな演技が主流の本作にあって、動的な演技を織り交ぜて、一見不釣り合いにも見えるけど、それが原作通りなのだから、本当にすごい。母子家庭でバイト生活なのだが、おちゃらけているようで、将来の夢も展望している実はもっともしっかりしているキャラ。表面だけではなく、内情まで想像して映画を観ると、楽しみも広がるというものだ。そして笑福亭鶴瓶がお爺ちゃんというのも楽しい。肖像画の演技で見せたシーンを思い浮かべたり、がるるというあだ名を聴いた時の釣瓶の反応を考えると、また楽しい。
吉岡先生が去ったという手紙を溝口先生(ムロツヨシ)が読むシーン。このシーンはピエロのような道化役の溝口先生が一気に光りをあびるシーンでもあるのだが、がるるはここでは静かな感動を呼び込む演技ができていた。原作も映画も深い内情は描かれなかったが、何か深い悩みも抱えているとは思う。そこはスピンオフに期待して、高城れにの真骨頂もそこに期待したいところだ。
明美ちゃん(佐々木彩夏)は下級生のリーダー格。だからこそ高橋さおり部長にプレッシャーもかけてしまう一方で、ユッコや中西さんが複雑な時にも双方に声をかけることもできる。スランプのシーンはまさに演技力、わざと劇中劇のスランプを演じるんだから、相当難しかったに違いない。その後の高橋さおりとのシーンは今映画最大のコミカル。そのコミカルとスランプやさおりと本音をぶつけ合うシリアス、そして劇中劇の稽古が一気に凝縮されたすごいシーン。
吉岡先生(黒木華)は最初の肖像画で見せた神がかりの演技と風という自然の演出、さおりの悪夢のシーンの演技。どれも秀逸で、言うことなし。演劇部にとっての神だった吉岡も、演劇に取り憑かれた者として、しかし皆を見捨てて、自身の夢へと走る。その過程の見えないところのテンションの変遷も良く伝わる演技だったと思う。
本映画は努力が報われた展開となったものの、演劇部が勝てなかった場合という想定は、さおり達の先輩を出すことである程度は回避できるていると思う。演劇の魅力に取り憑かれている限りは、まだ先にはチャンスが続いているということを示唆している。舞台にいる限りはどこへでも行けるのだ。そして当初の吉岡先生の道だって間違えていないのだとも示唆している。自分自身の夢をつかむためには何かを犠牲にしなくてはならない。当然犠牲になった方はたまらないが、それでも立ち直って前へ進まなければならないのだ。
中盤のさおり、中西さんの駅のシーンは前述したように感動シーンの最たるものだが、ラストの怒濤の流れも素晴らしい。原作が残した浄化作用とはまた違う終わり方ではあるが、映画「幕が上がる」としては素晴らしく綺麗に終わっている。原作で見られた県大会へむけた劇中劇の改良のシーンはあまりにもあっさりしているし、拍手喝采までみられなかったのは、少し残念な点ではあるものの、原作とはまるで違う感動と深い余韻を残してくれたのは間違いない。
こうなると続編が見たくなるが、これはあらゆる名作映画を見終わってしまった後に感じる普遍的な欲求なのだろう。ももクロファンというフィルターが余計に思えるくらい素晴らしい映画だった。
-------------------------------------
※ちなみに私(inat/あいなっと/アイナット)が書いた感想としては、今のところこんなところ。
1回目(完成披露試写会)は感想というよりネタばれなしツイートをまとめたもの「「幕が上がる」完成披露試写会
」(☆ネタばれなし)
2回目(お台場舞台挨拶)のネタばれ感想はYAHOO映画「導き導かれる人生のような青春映画
」(★ネタばれ注意)
2回目のネタばれなし感想映画.COM「変化球無しの真っ直ぐな情熱! 青春映画の金字塔
」(☆ネタばれなし)
原作は文庫も買って読んだので2回読みましたが、1回目のネタばれなし感想「幕が上がる/平田オリザ/講談社
」(☆ネタばれなし)
---------------------------------------