夕方
部屋のドアをそっと開け

サスケ 遅くなってごめんね

そう言いながら入って来る
あの人の帰りを

ひとりぼっちのこの部屋で
ぼくは毎日待っている


最近ぼくは
すごく変わったねって

よく言われる様になったんだ





ぼくがこの家の玄関って所に
閉じ込められたのは
たしか
暑い季節がやって来る
少し前のことだった

ぼくが暮らすこの部屋は
暑くもないし寒くもなくて

季節は今 いったいいつなのか
もう
よくわからなくなった



けれど
窓から見る景色の色が
少しずつ変わって行き
その色の変化に
季節の移り変わりを
かすかに感じながら

ぼくは暮らして来た

思えば
季節が移り変わる様に
ぼくの心も 少しずつ
変わって行ったのかもしれない


2021年7月保護した頃のサスケ


ずっと
ベッドの下に引きこもる日々だった
誰が入って来ても怖かった

ベッド下から出ようとしても怖くて腰が引ける


もちろん

今だってまだ

色々怖いことはある


初めて見る物

初めて聞く音

初めての感触

初めての匂い


怖くてなかなか近づけないけし

怖くないってわかるまで

時間はかかるけど


黙って見守って

待っててくれるから


勇気を出して 踏み出してみた


階段も降りてみる



すぐに全速力で

Uターンしちゃうけど




部屋のドアが開いていると

みんなが



部屋に来てくれる様にもなった

まだ
シャーって言われるけど
ぼくは全然平気だし
気にしてないんだ



あの人以外の膝にも

先月 初めて娘の膝に乗る


乗ってみた


優しかった



そんな毎日が



最近なんだか 楽しくなってきた





サスケ

明日は雪が降るらしいよ

あんまり積もらないといいね


あの人が教えてくれた


あさっての夜


また 捕獲をするんだって


ぼくも かつて

雪が降る凍える夜に

外を彷徨っていた


もう

決して戻ることはないけれど


一緒にご飯を食べていたみんなは

まだ外にいる


外で暮らすみんなのご飯を

あの人は

いつも 一番先に用意する


今日はこたろうが来なかったの泣


そんな事を言いながら

ぼくを撫でたりする


ぼくのことも

きっとそんな風に

心配してくれていたんだろうな


ぼくの様に

家に入れてもらえる猫と

そうじゃない猫がいることも知らず


あの頃は

毎日を ただ必死に生きていた




先月の捕獲の日

現れなかったキジトラの子を

何としても

捕まえなければならないらしい


1週間に一度くらいしか来ない

キジトラの子は

多分女の子なんだって


うまくいくといいね




ぼくが完全なフリーになったら

あの人は この部屋を

一時的な預かり部屋として

使うつもりでいるらしい


段ボールから出されずに眠ってる

ぼくのために買ってくれたケージ


役に立つ日は


そう遠くないかもしれないから


これからもよろしくね


母さん