今年1月に首都ワシントンDCの空港で起きた旅客機と軍用ヘリの事故はまだ記憶に新しいかと思います。着陸直前のアメリカン航空ボンバルディア機が米陸軍のブラックホーク機とポトマック川上空、高度100mで空中衝突して双方の乗員乗客全員が死亡という痛ましい事故ですが、事故直後から陸軍機側の落ち度を示唆する素人のSNS投稿、発言が相次ぎました。

 

もちろんその時点で公表されていた情報だとなぜブラックホークがそこにいたのか疑問に思ってしまうのは仕方のない状況であったことは理解できます。陸軍はブラックホークに搭乗していた3名の乗員中、男性2名の名前はすぐに公表したものの、女性1名の名前は遺族からの要望ですぐには公表しませんでした。折からの反DEIの嵐の中で、名前を公表してしまうと犠牲となった女性パイロットへの容赦ない誹謗・中傷が殺到するのを懸念したのかもしれません。女性であるというだけで

 

ところが――反トランス強硬派は何か事件があるとすぐに犯人がトランス女性だったと決めつけて偽情報を拡散するのですが、この事故も例外ではありませんでした。どこから探してきたのか、近隣の基地所属のトランス女性のブラックホークパイロットを実名で名指しし、彼女が事故機を操縦しており意図的に着陸直前の旅客機に突っ込んだ、などとSNSで拡散。

 

まともな人なら相手にしないような偽情報でも反トランスの素地のある人達は信じてしまって拡散するのでこういうSNS情報が後をたたないわけですが…… この「インフルエンサー」はNTSBの事故原因究明どころかまだ残骸の回収段階なのに、というかまだ遺体の収容すら終わってないのに、憶測で原因を決めつけた挙句、全然関係の無い人物を「テロ攻撃の犯人」として仕立て上げ、フォロワーや右翼メディアが「またもやトランス女性のテロ攻撃」、そのトランス女性を「大量殺人犯」と呼んで更にSNS(主にあの圧倒的シェアをもつイーロン・マスクのSNS)で拡散し、反トランス感情がますます焚きつけられるというお決まりのパターン。

 

事故二日後の朝に自分が死んだことになっていて名前がSNSでバズりまくっているのを知った当人はびっくり仰天。その時はネットの一部だけだろうと意に介さなかったそうですが、有力タブロイド紙から直接携帯に電話がかかってきて生きているかどうかの確認をされるに至ってついにSNS、主要メディアに「私、生きてます」とビデオメッセージを送ることに。

 

でもこの「私、生きてます」メッセージは強力でした。数日でこのパイロットに対しての「大量殺人犯」「テロリスト」呼ばわりは潮が引くように収まっていきます。そりゃそうですね。続いて本物の、実際に犠牲になった女性パイロットの名前が(恐らく遺族の決断により)公表され、この卑劣極まりない捏造ニュースは下火になりましたが、反トランス派がいかにSNSで一般の人々を扇動しようとしているか、一端が垣間見えた出来事でした。

 

でもこのトランスパイロットがあのタイミングで「私、生きてます」メッセージを送らなかったらどうなっていたでしょうか。かなり長い間この嘘ニュースは共和党支持者の中で信じられることになったと思います。真実が明るみに出ても主要メディアは嘘をついている、と信じこんでいる人達なので。反トランスインフルエンサーも本人が「生きてます」メッセージをすぐに発表しない想定だったんだろうと思います。トランスであることを公表するとSNSで袋叩きに会うのはわかりきっていることですから。

 

今回の反トランス宣伝に使われたのは15年の軍歴をもつバージニア州軍所属のパイロット(下の写真)。ご覧のとおりの(羨ましい)容貌でパス度もかなり高そうですが、声は恐らく元のまま?ギャップが大きいので声を聞くと驚くという米国のMTFには時々あるパターンです。ご興味お持ちのかたのために彼女のインタビューのリンクも載せますね。でもこの方の場合は性別移行開始からまだ2年程度らしいのでこれから声も練習してどんどん変わっていくかもしれません。

 

 

 

 

ちなみに事故が起きたのはポトマック河畔のワシントン・ナショナル空港(DCA)ですが、DCAはほぼ国内線専用で、日本からの便を含めた国際線の大多数は郊外のより大きなワシントン・ダレス空港(IAD)への発着となります。伊丹と関空みたいな位置づけですね。DCAへの南向き着陸の際は、一瞬ですが左側に合衆国政府中枢の建物群、リンカーン・メモリアルからワシントン・モニュメント、そして連邦議事堂までのナショナル・モールを一望することができます。

 

ところで先週の投稿が200回目の記事でした。読んでいただきありがとうございます!

 

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