前回の投稿ではトランス女性のスポーツ参加について、私は3つの要因――(1)そのスポーツ活動の目的、(2)トランス参加者の性別移行状況、(3)各競技ごとの優位性の有無――によって全く事情が異なってくると考えていることをお話ししました。つまるところ難しい点がでてくるのは勝敗、順位、記録が大きな意味を持つ場合、つまりエリートレベルの公式競技会(とその一部となる公式の下部大会)であって、教育機関でのスポーツ活動でトランス女性を排除すべきではないと考えていることもお伝えしました。今回は3つ目の要因です。
(3)男女の身体差のそれぞれの競技の優位性に対する影響
スポーツ競技は種目によって際めて多様です。各競技には筋力、持久力、柔軟性・バランス、体格など、異なった身体能力がその競技での優位性に影響します。男性が特に優位とされるのは主に筋力と体格ですが、その筋力・体格が大きな要因になる競技もあれば、そうでない競技もあり、中には男女別のない競技すらあるわけですね。
さて、トランス女性がホルモン治療を続けた場合――繰り返しになりますがーーまず筋力ですが、これはホルモンバランスがシス女性と同等であれば間違いなく落ちます。瞬発力もそれに応じて低下するでしょう。ただその期間が2年で充分なのか、もっと長期間必要なのか、あるいは短くてもいいのかは難しいところです。骨格は第二次性徴発現が終わる20代からは変えようがありません。持久力に関しては、ホルモン治療で筋力は落ちても肺活量がシス女性レベルに落ちるかどうかは私はわかりません。いろいろな点でまだ信頼に足るデータが十分揃ってないのかもしれませんね。性別移行するアスリートはまだまだ少ないですから。
つまり、現時点ではっきりわかっていることだけで敢えて単純化してしまえば、筋肉量が落ちることによって優位性が失われる競技ならば一定期間のホルモンバランスがシス女性と同等であれば女性として参加してもよいと私は考えています。ただその「一定期間」の長さも競技によって様々になると思います。筋力に依存する程度は競技によって違いますので。これについては各競技ごとに専門家がスポーツ医学の見地からガイドラインを作るべきだと思います。
一方体格差が優位性に大きな影響を与える競技の場合は別な検証が必要だと思っています。でもこれは更に難しいですね。体格差の場合、つまり例えば身長、体重などはどのくらいだったら女性として認められない?体重が優位をもたらす競技に関しては既に体重別の競技があるのでそれに倣えばいいかもしれません。(冬季種目の一部には体重要因の大きいものがありますが、体重別に分けたら、なんて話は聞いたことがありませんが)
でも身長は? 私は奥手だったため、中学から高校前半までは身長が物をいうスポーツに好感が持てませんでした。ですので競技によっては身長別、身長制限等の検討をしてもいいかもしれません、なんてかなり過激なことを勝手に言ってますが、どうでしょう? チームスポーツに関しては、そのチームでプレーしている選手の平均身長に制限をかけるとか?予め各選手の身長を登録しておけばどの選手を誰と交代したら平均身長制限に引っかかるなんてアプリは簡単にできると思うんですが。
いずれにしても様々な性別移行状況、競技者のトランス女性を全て排除するのはあからさまな差別です。ホルモンバランスをシス女性並みに保つべき期間については各競技別にスポーツ医学の専門家がガイドラインの作成すること、そして体格差については各競技別に専門家がその影響を精査し、チーム競技ならば平均身長制限など、個人競技であれば身長別などの検討をしてみてもいいと私は思っています。
そもそも体格差のせいで公平さが失われるという理屈が通るのであれば、シス女性だけで競技しても体格差が大きかった場合、公平といえるのでしょうか?身長別やチーム平均身長などは実際に実施するのは難しい面も多々あるのは承知の上ですし、筋力、体格以外の性別による優位性の要因もあるでしょう。でも「公平性」をつきつめるならばいろいろな方法を考えてみるのは有益だと思っています。