自分が、フライフィッシングを始めた32年前は、

初心者がはじめに買うフライリールと言えば、

コータックのCR、中国製のフルーガーメダリスト、

ダイワのファントムGS-5、シェイクスピアの2530、

そして、マーチンの62,63なんかが定番だった。

 

そして、その頃の、フライリールの「貧富の差」

あるいは「経済格差」は、今よりも激しく(笑)、

 

上記のような定価5000円前後の「安物リール」を買わないとすると、

2~3万円以上のハーディーやオーヴィスを選ぶしかなかった。

そのころは、1万円~2万円以下くらいの「中間層」のリールは、

なぜか、あんまりなかった。

 

そして、多くの人は、

まずは、マーチンやフルーガーメダリストなどの、

おもちゃっぽい安物リール使って経験を積んで、

ちょっと上達したら、

そのうち、ハーディーのフェザーウェイトや、オーヴィスのCFOを購入して、

いずれ、貧困層から「富裕層」に移行するのが普通の流れだった(笑)

 

当時のフライフィッシングでは、その人が使っている道具の値段で、

その人のフライ釣りの、キャリアとか実力を、値踏みするような、

いやらしい傾向が、他の釣りよりも、けっこう強くて、

みんな、見栄をはって、経済的に余裕があれば、

高いリールに切り替えていく傾向が強かった。

自分は貧乏なのに、フライについてだけはミーハー化してしまい、

ある程度年数がたってから、自分には身分不相応な、

ハーディーとかオーヴィスを、なんとか中古で手に入れることになり、

また今はもうBクラス扱いになってしまうけど、

見た目は高級感のあるSTHリールなども手にいれたので、

それまで持っていた、

それを現場で使っていると、フライの初心者に見られがちな、

安物リールの代名詞のマーチン63を、

フライを始めたいという職場の友人に、ダイワのロッドとともに、

譲ってしまった。

その頃自分は、マーチンのリールは、63のほかに

マーチン65と、アウトスプールのマーチン63SSがあったので、

定番すぎるインスプールの63は、

もう要らないかな、と思ったからだった。

 

しかし、先日、オークションのページをながめていたら

そのマーチン63、通称「ツナ缶」が、換えスプール付きで出てたので

思わず落札してしまった。

やっぱり、フライを始めたころに使った道具というのは、

なんだか、とても思い出深いものだし、

自分がフライの道具として最初に買った、

コータックCR-34やダイワのパックロッド「ファントム」も

もうとっくの昔に、友人に譲っちゃったので、

なんとなく、思い出を買い戻すような気持ちで、

つい落札してしまった。

また、その品が、スプール中央のラッチカバーが、アルミのタイプで

自分の持っている63SSは、それが黒のプラスチックでおもちゃっぽいので、

この63を、再度買いたくなった理由のひとつでもあった。

(フライマンは、安物といっても、こんなことにもこだわるものです‥笑)

 

↓このリールが何故「ツナ缶」と呼ばれるかというと、

普通のフライリールは、下の右のリールのように、側面が空いているものだが、

マーチン63は、側面が、円筒形でそのまま内部のスプールを覆っており、

横からみると、カン詰そっくりなので、そう呼ばれるようになった模様。

そして、側面を円筒形にくるむと、余分な重量がかかっているはずだが、

計ったら104グラムと、意外と軽量。

↓この円筒形の構造のよい所は、

例えば、下の普通のインスプールの安物リールだと

右下のハンドルノブのある所の、外側のフレームが、

岩に当てたりしたときに、下に凹んでしまうのが通例だが、

↓マーチンの場合、外のフレームが円筒形で剛性が高いので

岩にぶつけても、かどの円周が、なかなか凹まない。

ただし、逆にリール内部の水ハケは悪い、という欠点でもあるが。

↓内部の、クリック式のドラグは、

半固定式の、ラチェットの爪を、円形のリングの端で圧迫するだけという

至ってシンプルで、ドラグの強弱を即座に変更できないのが難点だけど、

前もって、円形リングを内側に少し曲げれば、ドラグの掛かりを、

ほんのちょっとだけ強めに調整できないこともないが、

ただし、円形リングを、ペンチを使って曲げようとすると、

ペンチでつかんだ箇所だけ極端に曲がりグセが残ったり、

リングのシャフトが折れてしまう可能性があるので、

手で慎重にゆっくり曲げるように注意しないといけない。

そしてシンプルな構造ゆえに、スプールに巻いたティペットの先端が

内側で、ギヤやラチェットに絡みずらく、トラブルが少ないのが長所。

 

本体背面の中央の、スプールシャフトの根元の上の、ボタンを

上にあげると、ラチェットがギアから離れて、フリーになります。

           ↓↓↓

 

そして、このマーチン63,

フルーガーメダリスト1492AKなんかに比べると

ラインキャパシティーがあり、WF-5Fまでくらいなら十分巻ける。

 

こう見ると、

軽量だし、ラインキャパシティーも、意外とあるし、

ギアやラチェットもシンプルでトラブルも少なく、

安物リールの中としては、悪くないリールなのを再確認。

 

部品のほとんどがシンプルで、

家内制手工業の単純な工作機械で組み立てられるような感じなので

アメリカの場末の工場で、

ビール腹のアメリカ人のおっちゃんたちが、

ガム噛みながら、時折コーラをがぶ飲みし、

同僚と談笑しながら、のんびり作っているような場面を想像してしまう。

『‥最近、日本人も、俺らのフライフィッシングをやるんだとさ‥』

『‥へえ~、いまごろかよ、やっぱり遅れてんだなあ、奴らは‥』

なんて会話を交わしつつ、組み立てられたリールかも(笑)

 

 

そして、マーチン安物リール御三家の

マーチン65,マーチン63SS、マーチン63を比較。

クリック音は、最初は、マーチン63が一番上品で静かな音だったのだが、

そのままだと、ラインを引き出すときに、バックラッシュをおこすので、

ラチェットを締める円形リングを、内側にしめて圧力を強くしたら、

ラチェット音が低音になり、あまり良い音でもなくなった(笑)

そうなると、65が一倍良いクリック音かも。

63SSは、いちばんクリック音が下品で、

オンボロ小型トラクターのようなカタカタ音(笑)

しかし、63SSの音がうるさい理由を考えてみたら、

アウトスプールは、インスプールよりスプール自体の重量のかさむものなので

それの重さに合わせた、強めのドラックの調整になっている感じがして、

(あくまで個人の感想)

そのためラチェットにインスプールの63、65より強い圧力があるように感じ

それで音が大きくなってしまう模様。

機種ごとにそういう事前の微調整があるみたいで、

安物といっても、ただの杜撰な商品ではない感じがする。

 

 

マーチン63と、63SSのスプールの互換性を試したところ、

63のスプールは、63SSの本体にセット可能だが、

63SSのスプールは、63の本体には合わず…

本体のサイズの見た目は、ほとんど一緒なのだが、

ノギスで図ると1mmくらい幅が違う感じ。

よく調べると、63SSのスプールは、63のスプールより

幅が1~1.5mmくらい幅が広いので、完全にフィットしない訳だ。

 

ちなみに63のスプールを、65の本体にセットはできるが

幅がちがうので、隙間がおおきく少しガタができて、

リールとして使おうとすれば、まあ使えるが、

細かいことをすごく気にする人には、

あんまり使い心地が良くないかも。

 

65のスプールは、もともと63や63SSと直径は同じだが

幅がひろいので、アウトスプールの63SSの本体にセットすると、

入りはするが、ラッチがシャフト先端にしっかりロックしないので、

軽く引っ張ると、スプールが本体から外れてしまい流用不可。

 

65スプールを、63の本体に入れると、これはOK。

互換性OKなのは、

66SSの本体に、63のスプールを突っ込む場合。

また使い心地を気にしなければ、

63のスプールを、65でも使えないこともない感じ。

そして、65のスプールを、63の本体に突っ込むのもOKだった。

ただし、外国製のものは個体によって製品のばらつきが多いので

これは自分の持っている個体だけの話かもしれない。

 

 

そして、

この「ツナ缶」、安物でも、やはり、いいリールじゃんと思って、

オーヴィスのスーパーファインにセットしようとしたら、

リールシートに、収まらない!!(爆笑)

高級ロッドには、高級リールしか入れないという、

「ブルジョワの壁」なのか??(笑)

↓そしてスーパーファインの廉価版のロッキーマウンテン(シルバーラベル)の

リールシートにも合わず(泪)

富裕層のロッドだけでなく、

中間層のロッドからも、入室を拒否されてしまう(笑)

 

‥買った、早々に‥

‥イジるしかなくなりました‥

そういえば、マーチン63SSの時も、

リールフットを、やすりで削って、調整した記憶がよみがえった。

 

↓ツナ缶のリールフットの両端を、各1mmくらいを

板やすりでシコシコと削り、

やっとスーパーファインにセットできるようになった。

 

そして、バッキングとフライラインを巻いて、実戦投入可能な状態に。

しかし、ロッドにセットして、フライラインを引き出してみると、

現状では、ドラッグの抵抗が弱くて、バックラッシュになるのを発見。

このまま現場で使うと危険なので、

ラチェットに圧力をかける円形リングを、

ペンチを使わず、折れないように、慎重に、手で内側に曲げて、圧力を増やし、

バックラッシュが起きずらい強さに調整。

だが、やはりそれほど極端にドラグの圧力が変化したわけではなかった。

そして、オリジナルにはなかった、

ライントラブル時の、

フライラインの一時逃避の溝を

スプールに作りました。

インスプールタイプで、このフライラインの一時逃避の溝がないと、

ラインのバックラッシュなど、トラブルになった時に、

フライラインが、本体とスプールの間にはさまってしまい、

スプールが、本体から取り外せなくなったり、

ムリに外そうとして、ラインが本体とスプールの間に挟まったまま

スプールを無理に引き抜くと、

フライラインがあっさりと簡単に切れるか、傷ついてしまいます。

インスプールのフライリールの、スプールについては、

この「フライラインの一時逃避の溝」はすごく大事。

(アウトスプールのリールでも、本体側にインスプールと同じ

 フレームがある場合でも同様です。)

この溝のせいで、ティペットの先端が

内部のギアやラチェットに入っていて絡むという、

トラブルの確率は増えますが、

それでもバックラッシュ時のライントラブル対処のためには、

この溝は必要。

そして、この溝自体が、ラインを傷つけないように

サンドペーパーで溝の角の部分を丸くしておくのも大事。

自分は、マーチン63SSや65のスプールにも、

オリジナルにはなかった、この溝をあえて作っています。

 

 

そして、やっぱり、マーチンみたいな、安物リールには、

富裕層でない、庶民派のグラスロッドとのマッチングが一番かなあ…

 

 

さて、この「ツナ缶」マーチン63、

これで、これから、ヤマメが何匹釣れるか分からないが、

ひょっとしたら、衰えた自分の脚力からすると、

オイカワ、カワムツ釣り専用リールになってしまうかもしれないが、

もう一度これを手放すことはなく、

ずっと、持ち続けることは確定です(笑い)

 

古い時代の、安物フライリーㇽには、

高級リールとは、また別の味わいがあるもので‥

 

‥こうしてまた、ぽんこつ釣り師の、狭い部屋に、

捨てられないガラクタが、増えていくのでありました(笑)