こんばんは。メイプル 沙織です。
今回は友情ものです。
やっぱり人間関係って難しい。
そんなことをふと思いました。
ではどうぞ。
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駅に足を踏み入れた瞬間、私をセミの声がつつんだ。「ああうるさい。どっかいけ」そんな風に私―見高 理夢【みたか りむ】は思っていたかもしれない。私は小さめのスーツケースを引きながら、改札の方へと歩いて行こうとした。しかし、ふと後ろを振り返るとたくさんの荷物を重そうに持っている同年代くらいの人がいた。なぜか私は迷わずにその人のところまで歩いて行って、荷物を一つか二つ持ってあげた。その人は呆けた様子だったが、私が歩き出すとついてきた。
「こんな僕に優しくしていただいてありがとうございます」
私はずっこけた。
「へりくだり過ぎ!」
すると、(“僕”だから)彼はきょとんとした。
「なに、そのイミワカランって顔」
いささか、この時の私は乱暴だったかもしれない。私と彼は(この時はまだいた)おじいさんの駅員に切符を渡して駅を後にした。
私は彼に荷物を返してバス停に歩いて行こうとした。バス停に向かって歩いていると、私の後ろでもガラガラという雑音が聞こえた。思わず振り返ると彼がいた。
「何だよ、ついてきても何にもねーぞ」
彼はしどろもどろしながら言った。
「いえ…そうではなくて、あの…×の○○○の□□□□というところはどの様にして行けば良いのでしょうか」
私は今聞かされた住所を頭の中で反復した。
「…」
「あのう…」
彼は何かを言おうとしたが、私がさえぎった。
「なあ、名前なんて言うんだ?」
「えっと…戸島 滝明【とじま たきあ】です」
「戸島くん…か」
私がそうつぶやくと、戸島くんは慌てたように否定した。
「ち…違います!ぼ…僕はっ女です!」
「…」
「あのう…」
「二度あることは三度あるって知ってるか?」
「知ってますけど」
「ならこういう事がもう一度あることを心しておけ、戸島くん」
「はい?」
「私は二回も連続して人を助けるのは初めてだからな、高くつくぞ。という意味だ、戸島くん」
「はあ。って僕は女ですってばー!」
「ツッコミが遅いぞ」
私は戸島くんをいじり倒していた。
「ところで、なぜ二回なのですか?」
戸島くんは不思議そうな顔をした。
「私にとっては不運なことに、戸島くんにとっては幸運なことに、私たちの行き先がおんなじだった」
「ああ、だからですか。って僕は女です!」
「じゃあ、“僕”言うなー」
そんなことを戸島くんと歩きながら話した。
その後、私と戸島くんはバスに乗った。しばらくして、戸島くんがいろいろ聞いてきた。
「あ…あのう、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
突然、そう切り出した。私は飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。
「ごほっごほ…。へりくだり過ぎって言ってんだろうが!」
「え…あの、ごめんなさい」
「何で謝ったのか意味ワカンネー。じゃなくて、名前っつったな。私は見高だ」
戸島くんはたたみ掛けて聞いてきた。
「下のお名前は?」
私はかなり迷ってから自分の名前を言った。
「理夢、だ」
「いいお名前ですね、理夢さん」
「芸がないな、戸島くん」
「僕は女です」
そして、私たちはバスを降りた。この時点で私と戸島くんは、お互いの名前と性別と年齢と生年月日と、性格のごく一部分を知った。
それ以外は何も知らなかった。
少なくとも私は知らなかった。
知りたくなかった。
現時刻は夕方。そろそろお腹が空き始めるころだった。私たちは旅館に着いた。見高 理夢と戸島 滝明の共通した目的地である。
「いらっしゃいませ、どうぞごゆっくりして行って下さいね」
私と戸島くんはチェックインを済ませた。この旅館は番号順に部屋を割り当てられるらしく、戸島くんと隣の部屋になった。
「やっぱり私は不運だ…」
「いいじゃないですか、女同士ですし」
「そういう問題じゃない!」
結局、お風呂に行く途中にばったり戸島くんに出くわしてしまい、仲良さげなところを旅館の人に見られた挙句、私の部屋で一緒にご飯を食べた。夕食を食べ終わり、一息つきながら戸島くんと私は話していた。そんな、話をしていた時のことだった。
「理夢さん、理夢さんは…」
戸島くんがそう言った時、私はふいに過去の記憶を思い出した。
――私が私の名前ではないはずの呼び名で呼ばれていた時のこと。クラスの中の誰も話しかけてくれなかった日々。――
私は急に怖くなって、言ってしまった。
「理夢さん、理夢さんってさあ…」
「え?」
「何回も私の名前を呼ぶけど、私にとってそれはただのトラウマなんだよ。トラウマでしかないんだ。だから、私の名前を呼んでくれるな。呼ぶんじゃねぇ。私を呼ぶことで、私が、私の心が、私の精神が!どれだけ傷付いているか知らないくせに、軽々しく理夢さんとか呼んでんじゃねえ!!私のことをちっともわかってねえ奴に呼ばれたくねえんだよ!!」
私はうつむいて思う限り叫んだ。自分では八つ当たりだとわかっていても、止まらなかった。
しばらくそうしていた。何も動かなかった。
「そうですか…。確かに僕は不用心だったようです。ごめんなさい」
そう言って、出口に足を向けた。
「お休みなさい」
律儀にそれだけつぶやいて、部屋を出て行った。
私は一瞬自分でも何が起きたのか分からなかった。戸島くんを傷つけたことはハッキリとわかった。でも、どうすればよいのかは、わからなかった。
次の日の朝。私は起きられなかった。体がだるいし、なんだか火照っていた。ぼけ~っとしているとふすまが叩かれた。
「失礼します」
ふすまが開くが、返事もできなかった。
「どうなさいましたか!?具合が悪いのですか?!」
私は何とか答えた。
「だるいし…熱い。動きたくない」
「それは重症です!すぐにお医者様を呼んで参ります」
「いらない…どうせ、ただの、風邪だ、し」
「でもそれでは…」
騒ぎを聞きつけたのか、戸島くんが部屋から出てきたのはこの時だった。
「どうかしたのですか?」
その声を聞いた途端、体が強張った。
「戸島様!実は見高様が風邪を…」
言い終わらないうちに誰かが部屋の中に入ってきた。
「り…見高さん、大丈夫ですかっ?!」
わざわざ言い直したのだけ、聞こえた。
「ごめん…な、滝明。酷いこと、言って」
「…」
私は意識が朦朧としている中、言葉を紡いだ。
「言い、直さなくて、いいから…名前で呼んで、くれないか?もう…逃げないからさ」
「理夢…さん…」
私はいま一度、意識の遮断を余儀なくされた。
お昼ごろだろうか。私が最初に見たのは天井だったので、判断できなかった。隣では声が聞こえた。
「滝明?」
「理夢さん…お目覚めですね」
ぐううと私のお腹が鳴った。
「お腹すいた」
滝明は笑った。笑ったところを始めて見た気がした。
「もう夕方ですからね、何を用意してもらえるか聞いてきます」
そう言って滝明は立ち上がった。
「…ありがとう、滝明」
「どういたしまして」
滝明はお盆を持って、すぐに戻ってきた。
「もう、夕ご飯を食べていいらしいので、僕が持ってきました」
私はありがたくいただいた。
さらに日が経った。私の風邪が治った次の日から、二人でいろんなところへ行った。観光地や、プール、地元の商店街…どれも楽しかった。
今、私と滝明は出会った駅にいた。私はもう一日滞在するので見送りに来ていた。
「楽しかったよ、滝明」
「僕もです、理夢さん。では、また来年」
その時、電車が来て、滝明は乗り込んだ。
「「じゃあね」」
二人同時にそう言うと、電車のベルが鳴った。
そして、今に至る。
今日は私と彼女の約束の日。
次の電車が来て、“たくさんの荷物を重そうに持っている同年代くらいの人”が降りてきた。
どうだったでしょうか。
大変でしょう?
まあ、楽なことはないと私は考えてますが。
読んで下さりありがとうございました。
ではまた。