今にも大粒の雨が落ちてきそうな曇天の下に広がっているのは、一筋の光も差さない陰樹の森
踏みしめた足元には目の前の森から伸びた太い木の根がはり巡らされ、まるであたしたちの侵入を拒むかのように波打っている
あたしたちは今、エリニュエス大陸の南に位置している巨大な森、通称“惑わせの森”の入り口に来ていた
「 ねぇフウカちゃん…あたしたち今から、本当にこの森に入らなきゃならないの…?」
曇り空の下、薄く霧がかった陰気な雰囲気が漂う森を目の前にし、カリンは泣きそうな声で横にいるあたしに囁いた
「 う、うん…。」
頷くあたしの声は心なしか震えている
「 えーでは、これから“惑わせの森”へと入ります。
各自課題を確認してください。準備はいいですか?」
パティ先生の鋭い声が遠い前方から聞こえる
あたしたちの学年は合わせて300人以上いるため、クラスごとに並ぶとあたしたちは先生方のいる前方からはだいぶ後ろの位置になる
「 そういや、おいら達の課題ってなんだっけ?」
あたしの前に立っていたカイが、珍しくマリアンヌがのっていない肩越しに後ろを振り向いた
あたしは先日パティ先生から説明された課題の内容を懸命に頭から探る
「 えーっと、確か…怪しいおふだが貼られた呪われてそうな祠と木を探せばいいんだっけ。」
「 神聖な魔除けのおふだが貼られた森の祠に祀ってある御神木を探すんだよっ。」
カイのとなりで話を聞いていたチトセが、片眉を上げてぐりんと振り向いてきた
「 なによー結局おんなじことじゃん。」
あたしが唇をとがらせると、チトセは呆れたようにため息をついた
「 お前がもしバチ当たったとしても、絶対俺らを巻き込むなよ。」
チトセがバカにしたような目で見てきたので言い返そうとするが、カリンにまあまあとなだめられ口をつぐむ
「 まぁでも、こんな陰気臭い様子じゃ幽霊とか呪いとかがあっても不思議じゃねーよなぁ。」
カイがのんきな顔で森を見上げながら呟いた言葉に、カリンの顔が一気に青くなる
「 フウカちゃん、どうしよう~。」
「 ちょっとカイ!変なこと言うのやめてよ。」
あたしたちは抱き合いながら森から逃げるようにじりっと後ずさった
しかし
「 みなさん、地図は手元にありますか?
それぞれグループごとに違う課題を設けましたので、自力で地図を見ながら進むこと。いいですね?」
パティ先生の声に皆がはーいと返事をすると、あたしたちの並んだ集団は一斉に木々が生い茂った森の入り口へと歩き始める
その波に押されるようにあたしたちも、暗く口を開けている森へと進むしかなかった