たくさんの人たちが次々に来ては帰ります。火葬する前に会いに来るのです。

わたしは父の携帯から、親しい人には火葬する前に連絡をしようと思いました。履歴を見ると、愛人と頻回に連絡を取り合っているようでした。メールでのやり取りを少し見てみました。いつもかぶっていたニット帽も愛人と買った物だったようです。そして、全て消去しました。

わたしは自分の携帯から愛人にメールをしました。

はじめまして、娘のNoaです。今朝父が亡くなりました。明後日火葬するので、よかったら、その前に会いに来てください、と。

返事は、
まさかNoaさんからメールがくるとは思ってもいませんでした。Tさん(父)は仕事を休むのが嫌いな人なので、遠い土地から祈っています、ご連絡ありがとうございました、でした。

そして、出棺の日です。
湯かんが行われます、白い着物に着替えさせられた父を見て、わたしは耐えられず泣いてしまいました。止められませんでした。そして、棺の中にニット帽をいれました。

霊柩車が来て、父は実家を出ました。

そこから火葬場に着くまで、遅れて先ほど到着した夫に娘を託し、ずっと泣いていました。バスの中でも一人で離れた所に座り、ひたすら泣いていました。わたしが泣いたのは、火葬場に着くまでです。そこからはもう気持ちの整理ができていました。死んだら当然、焼かれるものですから。

私は母に寄り添うどころか、母から避け、離れた所にいました。焼き終わるまでの待ち時間も、お骨を拾う時も、母とは話もしませんでした。
不幸な自分に酔い、自分自身をよりかわいそうに見せる母にすっかりしらけてしまいました。