264年1日



年が明けた。
いよいよ勝負の年がやってきたのだ。
未だかつてやったことのない挑戦。
本当に僕にやってのけられるのだろうかという不安はある。
むしろ不安しかない。
しかし、既に4年前からこのプロジェクトは始まってしまっているのだ。


自分でも無謀だとは思っている。
失敗する算段の方が大きいだろう。
しかし、やってみなければならない。
でなければ、この4年の苦労は報われない。
失敗してもいい。
ただ、最善を尽くそう…


…一体何の話かといえば、仲人の話だ。
実をいえば今まで何度も仲人の経験はある。
親友ブレソールやラトランドくん、エウヘニョやジュリアンだって僕が仲人したし、直近ではジュニアスくんと親戚アンヌの仲人もやってのけた。


だからといって仲人が上手いかといえば…そうでは無い。
むしろ下手くそだと言っていいだろう。
とにかく要領が悪い。
その自覚はある。
とはいえ、そのやり方しか出来ないなだからしょうがない。


で、今年なのだ。
今年はなんと3組同時なのだ!
1組だって苦戦する僕が何故3組同時仲人なんてするのか。
…僕自身にもよく分からない。
最初は軽い気持ちだったんだ。


娘のベアトリスが生まれた年には、姉のところにも女の子が生まれて、親友ラトランドくんのところにも女の子が生まれた。
多分それにテンションが上がってしまったのだと思う。
で、この可愛い女の子たちが将来“恋人が出来ない🥺”なんて悩まなくてもいいように、小さい頃から男の子を紹介してあげよう!というお節介を焼いたのが始まりだ。
それで、ベアトリスにはボビーを、姪っ子アニータにはアベラルドくんを、ラトランドくんの娘アイーダちゃんには、こちらも親友ヴァレリアンの息子フェランドくんを、全員が1歳になった時から(フェランドくんだけは1歳年上)何かとピクニックに連れて行っていたのだ。


そして今日、一足先に成人したフェランドくん以外の5人が成人するというわけだ。
今まではおままごとの延長みたいなものだったが、今日からは本格的な仲人が始まる。
…と、本来ならば気合いが入るところなのだが、なんだかイマイチ士気が上がらない。
冷静に考えて、可愛い娘に早く恋人を作らせる行為なのだ。
それを父親がやるんだ。
…正気の沙汰とは思えない。


とはいえ、自分でやると言ってしまったことなのだから、やらねばならんのだろうなぁ…。
何せ、それぞれの親御さんにも許可取ってやってることだもんなぁ…。
何とかやる気を奮い立たせよう!


沈みそうになる気持ちを何とか鼓舞しながら朝食の席に着くと、ジェニファーがサリアの花を食べていた。
食いしん坊のジェニファーにはそれでは足りなかろうに。

ジェニーちゃん、もっとちゃんとしたもの食べなさいね。

「ええ〜?でもこれあまくておいしいんだよ〜」

まあパパも小さい頃食べたことあるから甘いのは知ってるけどね、お花じゃお腹いっぱいにならないでしょ?

「うーん、そっかぁー。…あ、でも、お花をいーっぱいたべればおなかいっぱいになるんじゃない?」

お花をいーっぱい食べるのにどのくらい時間かかると思ってるの?
新年祝賀に遅れちゃうよ。

「ジェニファーいかないもん!」

「ジェニーちゃんったら。いかないもんじゃなくて行くのよ!」

「やぁだぁー。ジェニファーはここでお花たべてるの!」

「だーめ、行くの!」

「やぁだぁー」


妻とジェニファーの、新年祝賀に行く行かないの攻防を微笑ましく見ていた僕は、ふとベアトリスの方を見ると、彼女も母親と妹の言い争いをニコニコしながら見ていた。
その顔がすっかり大人の表情をしていて、せっかく浮上していた僕の気持ちは再びどんよりとしてしまった。














時間は飛んで昼1刻。
結局家族揃って新年祝賀を見に行ってからそれぞれバラバラに過ごして、再びこの玉座の間に集まった。
娘が成人してしまうことに寂しさを感じてはいるが、この成人式は絶対に見逃せないのだ。


神官であるジュリアンが「卒業生代表よりあいさつをお願いします」と言うと、「はい!」と、聞き慣れた超えが元気よく返事をする。
聞き慣れてはいるがいつもよりも固いその声は、緊張していることを知らせていた。
「頑張れ、頑張れ」僕は声に出さずにただ心の中でそう言い続けるしか出来ない。


そう、娘のベアトリスは3年間真面目に学校に通い続け、首席で卒業することが決まり、同時に卒業生代表に選ばれたのだ。
数日前から何度も何度も家で練習していた台詞。
間違えずに言えますように。
親として祈ることしか出来ないのがもどかしい。

「今日、私たちは学舎よりはばたき、王国発展の礎になるよう努めて参ります。学ぶ機会を与えて下さった陛下、授業をして下さった先生方、今日まで育ててくださった父母、本当にありがとうございました」


卒業生の父母達から大きな拍手をもらう娘。
一字一句間違えずに挨拶出来た娘に、僕は手が痛くなるほどの拍手を送る。
妻が持ってきたハンカチで涙を拭いながら

「トリスちゃん、立派だわぁ…」

と、言ってこちらを見た。
そしてギョッとした気配を感じる。
うん、引いてるんだろうねぇ。
だって僕、今滂沱の涙を流してるんだもの。
声が漏れてしまわぬ様に懸命に唇を噛み締めてるんだもの。
呆れた妻がハンカチを貸してくれたので、それを口に当てて嗚咽を堪える。

もちろん、立派な挨拶をした娘に感動しているのだが、それだけではない。
こんなにも愛らしい娘を他の男にくれてやらなくてはならないということが悔しくて涙が止まらないのだ。
そして、今からそれをするのが自分だという事実に、怒りを通り越して悲しくなっているのだ。
そんな複雑な父親心なのだよ…。


「だったら仲人なんてやらなきゃいいのに」


こちらの心を見透かす名人である妻が、呆れたようにそう言った。
出来ることならそうしてるさ!
でも、でも…


もう、ボビーを初め、他の子のご両親に許可貰っちゃってるんだから、今更やめられないだろ!


そう言う僕に、妻は大きなため息をついて「バカねぇ…」と言ったっきり、この話はしてこなかった。











(仲人には関係ないけど、レオノールちゃんは親友ブレソールの娘なので載せておきますw)








成人式が終わり、そそくさとエルネア城を出ていこうとする娘に、どこに行くのかと尋ねてみた。
すると「筋骨堂」だという。
我が娘ながら、色気がないなぁ…。
ボビーも、ベアトリスに声をかける素振りもなく城下通りの方へと歩いていってしまった。
うーむ、安心したような、そうでないような…


特にボビーに対してはイラッとしたような…
なんだ?うちの可愛い娘には興味ないってのか?ああん?
という、怒りの感情が湧いてくるような…
まあ、これでベアトリスに話しかけてきたらきたで、やっぱりイラッとするんだろうからどっちでも結果は同じだろう。
ボビーに全く罪はないということは分かってる。
むしろボビー選んだの僕だからなぁ。







噴水広場にいたら、横をものすごい速さで通り過ぎて言った子がいて、どうやらアベラルドくんっぽかった。
誰かと一緒だった気がしたので、慌てて追いかけてみたら…
アニータじゃないか!
成人式終わりにその姿を探しても見当たらず、導きの蝶を使って調べたら自宅にいた姪っ子アニータ。
もしかしてアベラルドくんは成人式終わりにアニータの家まで行ってどこかへ誘ったということか?!(方角からして多分茸狩りに誘ったと思われる)
これはいい感じなのではないか?
3組中、少なくとも1組は順調に行きそうだ。













さて、実は先程3組同時仲人などと言ったのだが、実は何故か1組増えてしまったのだ。
実は年の離れた従兄弟ファンホが、8歳になったというのに未だ恋人がいなかったので、昨年成人したペギーちゃん(ジュニアスくんの妹)を紹介していた。
しかし、一足先に成人したフェランドくんが朝からペギーちゃんの元に通い出すようになってしまったのだ。
フェランドくんにはアイーダちゃんの成人を待っててもらわねばならなかったし、何よりフェランドくんとペギーちゃんにくっつかれてしまうと益々ファンホは縁遠くなってしまう。
慌てて昨年の冬から本格的にファンホとペギーちゃんの仲人を始めたという事情がある。


しかしこのファンホ。
こちらがこれだけ心配して心を砕いているというのに、朝は年の離れたお姉ちゃん(アデリーナ)の所へ挨拶に行って、その後は畑仕事をして1人でハーブ摘みをするようなことが男なのだ。
顔がいいのに今まで恋人が出来なかった訳が分かった気がした。
気がつくとアデリーナと一緒にいる…つまりファンホは重度のシスコンということだ。


ウルリーケ叔母さんが生きてたら、この状況をなんと嘆くだろうか。
ファンホを産んだ時、ウルリーケ叔母さんは19歳の高齢だった。
命懸けで産んだ息子がシスコンになったなんて、どれほど悲しむことだろう。
何とかしてやらねば、という闘志が湧いてきてしまったのだ。


…が、これで4組のカップルの動向をチェックしなければならなくなった。
つまり8人が何処にいるかを常に把握しなければならないということだ。
誰から、どこから見ていったらいいかさっぱり分からない!
パパ、パニック!
まだ1日目だと言うのに、既にパパ、パニック!
ああ、やっぱり無謀だ。
どう考えても上手く行くとは思えない!
望みがあるのはアニータとアベラルドくんのみだ。
あとの6人は会いに行く気配さえ見せない。
1日目にして心が折れそうになっている僕なのです…ぴえん🥺