264年25日




さて、今年もギート麦の種まきの日がやって来た。

毎年のこととはいえ、年々種まきの作業がきつくなってくる。

あの腰を屈める動作がなぁ…



いやいや、年齢の割にはまだまだ身体は若いつもりでいるのだから弱音は吐くまい。

何せ今年は近衛騎士隊トーナメントで初優勝をしたんだしね!

来年は騎士隊長になるんだから、身体がきついなんて言ってられない。

身を引き締めなければ!



早速種を買いに農地へ…

の前に、今日は次女ジェニファーの4歳の誕生日だからお祝いをしなければ。

ベアトリスとヒューブがハッピーバースデーを歌い、みんなでおめでとうを言って朝食を食べる。

ジェニファーは自らザッハトルテを用意したようだ。

ジェニファーは最近料理人ハマっているみたい。

食べたい時に食べたいものを食べたいだけ食べるために料理を極めようとしているようで、今年に入ってから妻に教えて貰いながら始めた料理の腕はめきめきと上がっているらしい。

出来た料理は片っ端から自分で食べてしまっているようで、僕は未だにご相伴に預かったことはないのだが…



今年の誕生日プレゼントは女神の贈り物にした。
これは学校の宿題にもなるものなので、もし来年の収穫祭で女神の贈り物を見つけることが出来なかったらこれを学校に提出してもらいたいものだw








ジェニファーはこの後学校があるのですぐにはお出かけに誘えない。
なので仕方なく僕はジェニファーの学校が終わるまでに麦の種まきを終わらせてしまおうと勇んで農場Cに行ったのだが、まだ誰もいなかった…


以前、「農場管理官の人たちはのんびりしてるよなぁ。もっとキビキビ動いて欲しいものだ」と妻に愚痴ったら、「あなたがせっかちなだけよ!」と言い返されてしまったことがある。
そして、「自分が出来ることは人も出来るって思わない方がいいわ。そういうとこ悪い癖よ!」と、ついでに説教もされてしまったことがある。
それ以来、農場管理官の人が来るのが遅くてもイライラしないように努めているのだが…
早く種を売ってくれやしないかと、テーブルの前を行ったり来たりしてしまう僕。
来年には熟年に入るというのに、まだまだ人間が出来てないなぁと自分にガッカリしてしまう瞬間だ。








何とか無事に種を買い(農場管理官がテーブルに置く傍から買っていくというスタイルで農場管理官をあたふたさせてしまった)腰や膝に感じる痛みは老化ではなくただの筋肉疲労であると言い訳しつつ自宅の畑に植え終えた僕は、授業が終わったであろうジェニファーを学校まで迎えに行って酒場へと誘った。


ジェニーちゃん美味しい?

「うん、ウィアラさんのりょうりはぜんぶおいしいよ!」

そっかー、良かった。
ねぇ、ジェニーちゃんは大きくなったらやりたいこととかあるの?

「えっとね。ジェニファーは、パパやママみたいにまじゅーをたおすきしさんになるのよ!」

そうなの?
パパとママみたいに騎士になりたいのか。
お姉ちゃんも騎士になりたいみたいだねぇ。

「うん。…でもお姉ちゃんまけちゃった…」

うん、そうだね。
あれは仕方がないんだよ。

「エウヘニョおじちゃんつよすぎ。お姉ちゃんかわいそう…」

エウヘニョおじさんとトリスちゃんでは年齢も経験の差も大きいからね。
騎士隊に入ったらもっと強い人は沢山いるからね。
トリスちゃんは残念だったけど、力不足だったかなぁ?

「ジェニファーはいっしょーけんめーおうえんしたのに、まけちゃったのよ?お姉ちゃんないてた…」

そうなの?
いつ泣いてたの?

「まけちゃった日。ジェニファーね、お姉ちゃんに“まけちゃったけど、お姉ちゃんかっこよかったよ”って言いたくてさがしてたの」

ジェニーちゃんは優しいねぇ。

「そしたらお姉ちゃんお家に帰ってて、そこで泣いてたの。ボビーくんがね、お姉ちゃんの頭よしよししてた」

んぇあ?
ボビーが家に来てたのかい?

「うん、お姉ちゃんのこいびとでしょ?ジェニファー知ってるのよ!お姉ちゃんがおしえてくれたもの。ボビーくんがね、お姉ちゃんに“さらいねんまたがんばろーね”って言ってたの」

ああ、そう。

「さらいねんっていつ?ジェニファー大人になってる?」

え?ああ、うん。
ジェニーちゃんが成人する年だね。

「じゃあ、ジェニファーとお姉ちゃんでいっしょにきしさんになれる?」

トーナメントに勝てればね。

「ジェニファーがんばる!」

ところでジェニーちゃん。
ボビーはよしよししただけだよね?
他には何もしてないよね?

「うーんとねぇ……、あっ、おでこにチューしてたよ!パパとママが抱っこしてチューってするみたいに!」

ちゅ、ちゅー?!
だ、だだだだだ抱っこ?!

「だってお姉ちゃんはボビーくんにギューってして泣いてたから」

おおぅっふぅ…

「パパだいじょーぶ?おなかがいたいの?もう食べられないならジェニファーが食べてあげようか?」

お、おう…ありがとう。
そうだね、パパはすっかり食欲がなくなってしまったよ…


ベアトリスとボビーが恋人になったのは、僕がそう仕向けたからなんだけど、いざ娘に恋人が出来てしまうと複雑な感情を抱いてしまうのはいた仕方のないことで…
毎朝のようにボビーが家まで来てベアトリスと朝の挨拶がてらイチャイチャしているのを目の当たりにしてしまうと、胸が締め付けられるような間隔になる。
昔はパパ、パパと着いてきたというのに!という気持ちが湧いてきてしまうのだ。


僕自身、若い頃は同じようなことはしていた。
当時まだ恋人だった妻の実家で平気でキスとかしてたものだ。
義父のアリツさんがいてもお構い無しだった。
今になって、あの時アリツさんはどんな気持ちだったのだろうと思うと、今更ながらに胸が痛む。


今目の前で僕の分のガゾパスタまで平らげようとしているこの子だって、いずれは恋人を作ってしまうのだろう。
そしてその男と、僕の目の前でイチャついたりするんだ。
ああ、娘なんて持つものじゃないな。
全くもってつまらない。
手塩にかけて、それこそ目の中に入れても痛くないほど可愛がってもいずれ何処の馬の骨とも知れない男にカッ攫われて行くのだ…


ああ、いかんいかん。
泣きそうになってしまった。
今日はジェニファーの誕生日なんだから、楽しく過ごさせてやらねば!

ジェニーちゃん。
そんなに騎士になりたいなら、この後パパと森の小道に行って鍛えるかい?

「うん、いくー!パパは見ててね!ジェニファーがぜんぶたおしてあげるから!」

おおっ、それは頼もしいなぁ〜。










ジェニファーは宣言通り魔獣を薙ぎ払うように倒して行った。
もちろん僕は一度も攻撃することなくダンジョンを出た。
ベアトリスと違ってジェニファーには許嫁は決めていないから、炎獄や水没でのお見合い探索はしていない。
だが、そろそろ連れて行ってあげるべきだろうか?
どう見ても物足りなさそうだ。


しかし、小さい頃からあまり強くしすぎてもなぁ…という気持ちもある。
僕自身、母の厳しい指導で成人前にフルカンストした経験があるから言えることだが、同級生との間に力の差が出来てしまうと、練習試合に誘われなくなるなど距離を取られることがあるのだ。
ジェニファーにはそんな経験して欲しくないなぁとも思ってしまって、本人の希望通りに鍛えることには躊躇してしまう親心がある。
さて、どうしたものか…











その後、僕自身の探索を済ませて家に帰る途中にジェニファーを見かけたので、声をかけて一緒に家に帰ることに。
来年の誕生日は何をしようか?