264年28日
今日は朝から奇妙な気分で目が覚めた。
何やら夢を見たようだが、内容がさっぱり思い出せない。
確か小さい頃の夢だったような気がしないでもなかった。
夢を見たせいなのか、それとも夢の内容が思い出せないせいなのか、妙な焦燥感があって落ち着かない。
身体は特に何ともない。
すこぶる元気だ。
来年からは近衛騎士隊長として部下を従える立場になるので、ここ最近は健康にも気を使っている。
だが、気持ちは何かに焦っている。
その“何か”が分からないから気持ちが悪い。
とにかく今日1日を有意義に使わなければならないような強迫観念が芽生えているのだ。
別に無為に1日を使ったことはないのだが、今日は探索などせず人と交流した方がいいような気がしてきている。
せっかく自由に探索出来る休日だというのに…
だが、こういうことは滅多にない。
滅多にないからこそ、それに従いたいと思うのだ。
今日は思いっきり家族と過ごそうと決めた。
まず朝食後、妻をデートに誘おうとしたら逆に妻の方から誘われた。
同じことを考えているのだとわかる瞬間は何年経っても嬉しいものだ。
妻はデートでバシアス浴場に行くのが好きだ。
それはきっちり子供たちにも受け継がれているようで、子供たちからよくお風呂に行こうと誘われる。
自分や妻の何かが、子供たちにも受け継がれて行くというのは素直に嬉しい。
僕と結婚してくれてありがとね、リカちゃん。
「………突然どうしたの?もしかして結婚記念日が今日だと勘違いしてる?」
いやいや、僕たちの結婚記念日は4日だよ。
忘れるわけないだろ?
ただ、なんだか言いたくなったんだよねぇ。
なんでだろう?
幸せだからかなぁ。
「幸せなんだ」
そりゃあ幸せだよ。
愛する奥さんに、可愛い子供たちがいてさ。
来年には近衛騎士隊長だ。
まあ、ちょっと面倒っちゃ面倒なんだけどね。
幸せすぎてさ、誰彼構わず感謝しないとバチが当たりそうなんだよなぁ。
「フフ、何それ〜」
リカちゃんにはそういう時ない?
「そりゃあね、私だって毎日幸せだもん。感謝してるよ」
そうだよねぇ〜。
幸せだよねぇ〜。
子供たちもすくすく育ってくれてさ、子育てで悩むことなんて全然ないよねぇ〜。
「いや、あるけど」
え?あるの?
「そりゃあるわよ、多かれ少なかれ」
た、例えば?
「そうねぇ〜。例えばジェニーちゃんの一人称とか?」
は?え?ん?一人称?
「そう。ジェニーちゃんって自分のこと“ジェニファー”って呼ぶじゃない?」
ああ、あれ可愛いよねぇ〜。
「まあ今はね、今は子供だから可愛いよねぇ〜ですんでるけどさ、大人になってもそのままだと同性に嫌われると思うのよねぇ…」
は?なんで?
うちのジェニーちゃんは誰かに嫌われるような子じゃないですけど?!
「ジェニーちゃん、友達も男の子ばかりなのよねぇ」
まあジェニーちゃんは多少やんちゃだからね。
男の子と遊ぶ方が楽しいんじゃない?
「ジェニーちゃんに他意はないのよ。でも、同年代の女の子たちにはそれが分からないじゃない?」
分かんなかったらダメなの?
「あのね、私たちは親だからジェニーちゃんに他意がないのは分かってるけど、他の女の子たちからしてみれば“自分のことを名前で呼んで、男の子とばかり遊んでいる女の子”って思われてるのよ。そういう女の子と事、一言でなんて言うか知ってる?」
え?何?なんだろ?
「ぶりっ子」
はあ〜?!
ジェニーちゃんがぶりっ子?!
ないないないない!
ジェニーちゃんがぶりっ子なら、僕だってぶりっ子だよ!
「…うん、ちょっと何言ってるか分からないけども。でもね、女の子たちにはジェニーちゃんがぶりっ子に見えてるのよ。実際はどうあれ、ね?そして女の子たちはぶりっ子が嫌いなの」
でも、ジェニーちゃんは?天然なだけだと思うけどなぁ。
「そうなんだけどね。その子が天然なのかぶりっ子なのかなんて、ちゃんと喋って関わってみなきゃ分からないじゃない?でも、ジェニーちゃんが自分を名前で呼ぶことによって女の子たちが関わることさえしてくれなかったら、いつまで経っても誤解は解けないじゃない?」
ああ、なるぼどねぇ。
「今は子供だから“可愛いねぇ”で済むけど、大人になってもそのままだとねぇ」
意外とちゃんとした悩みなんだねぇ。
「はぁ…、他人事みたいに言わないでよ」
あ、ごめん。
「あの子も来年には最終学年だし、そろそろその辺のこと話してみようと思うのよ。もう理解出来る年頃だと思うし」
つまり、ジェニーちゃんが“わたし〜”とか言うの?
ええ〜?やーだーぁぁぁぁぁぁぁ。
「子供か!仕方ないのよ、あの子のためなんだから!それともあの子に女の子の友達が出来ないどころか、女の子たちから嫌われてもいいって言うの?」
それは嫌だけどぉ。
可愛いのにさぁ〜。
「可愛いからダメなのよ。男の子に可愛いアピールしてるって思われるの。で、可愛いアピールする子は女の子に嫌われちゃうの」
可愛いアピールするのがなんでダメなんだろう?
可愛い子はアピールした方がいいじゃん。
「そゃあ、自分の意中の人が、可愛いアピールしてる子に靡いたら大変だもの。女の子はね、自分の恋のライバルになりそうな子は嫌いなの」
自分の魅力で勝負しようとは思わないのかねぇ。
「ユーくんみたいに、自分に自信のある人ばかりじゃないのよ。寧ろ、自信のない子の方が多いんじゃないのかなぁ?」
うーん、僕は女の子のこと結構分かってたつもりだったけど、実は全然分かってなかったんだねぇ。
「まあ、ユーくんの場合育った環境がねぇ。何せ母親のツェリさんが、自分に自信しかない人だったからねぇ」
お母さんが昔言ってた。
“女の子はね、女の子であるだけで魅力的ですのよ!”って。
そう教えられて育ったからなぁ。
「ユーくんはちょっと特殊よねぇ。ま、とにかく、今度ちゃんとジェニーちゃんと話してみるわ」
そういうのはやっぱり女親の方がいい?
僕から話してもいいんだよ?
「うーん、多分女親の方がいいと思う。女には女にしか分からないことがあるからねぇ」
つまんない…
「はいはい、いじけないの!」
いつの間にやら子育ての話をしてしまうのも、この歳になると仕方がないことかもしれない。
昔はただお風呂で、キャッキャウフフな会話だけしていられたんだけどなぁ。



一度家に戻ったらまだヒューブが家にいたので、水源の滝に出かけないかと誘ってみた。
水源の滝はヒューブのお気に入りの場所だから。
案の定喜んでくれて、2人で歩いて向かう…はずだったんだが、ヒューブは嬉しさを抑えられないのかだんだん早足になっていき、しまいには走り出してしまった。
「パパはやくー」と言われて仕方なく小走りで追いついたらまた走り出して…を繰り返す羽目になってしまった。
まあ別に走るのは嫌ではないんだが、休日なんだしあんまり体力使いたくないなぁとか、思ってしまうんだよねぇ。
これも加齢のせいなのだろうか?


ヒューブとのお出かけが終わるとちょうどお昼時だったので、ジェニファーを誘って一緒にお昼を食べることにした。
ジェニファーはジッとウィアラさんの手元を見ている。
最近料理をするようになったジェニファーは、酒場に来るとウィアラさんの手元を見て料理の勉強をしている。
食べることに関しては本当に貪欲な子だ。
さりげなく同級生の女の子たちのことを聞いてみたのだが、首を傾げるだけだった。
どうやらあまり喋ったことがないらしく、よく分からないらしい。
曰く、「ジェニファーはお人形さん遊びとか好きじゃないの。草の実探しとか石探しの方が好きなの。だからいつも男の子と遊んでるー」だそうだ。
なるほど、妻の言っていたのはこういうことか。
確かに、女友達はいないようだ。
本人は特にそれを気にしてる風ではないが、やはり多くなくてもいいから同世代の女友達がいてくれる方が、親としては安心出来る気がする。
とはいえ、どう言えば伝わるか分からないから、ここは妻に任せよう。


酒場を出て、ジェニファーが神殿通りの方へ歩いていくのを見送っていると、ブレソールがやって来て食事に誘われた。
今食べたところだと断ろうと思ったのだが、既のところで言葉が止まった。
朝から続く焦燥感が、断ってはダメだと言ってる気がするのだ。
そんなはずはないのだけれど…
結局僕はブレソールと再び酒場で食事をしていた。
さっきはガッツリ系のを食べたので、今はスープだけを頼んだ。
「ユーリ、スープだけで足りるのか?」
うん、全然足りる。
「食欲ねーの?大丈夫か?」
ああ、別に調子悪いとかそういうことじゃないんだ。
実はさっき娘とお昼食べたばかりでさ。
「はあ?なんだよ、だったらそう言えよ」
いや、うん、まあそうなんだけど。
「別に断られたからって傷ついたりしねーぞ?もう食べたんなら仕方ないもんな」
まあ、それはそうなんだけどさ。
なんか、断っちゃダメな気がして。
「ん?なんだそれ?」
分からん。
「分からんって…」
なんか朝から変なんだよなぁ。
妙に焦ってるっていうか。
人と交流しなきゃいけないような気がしててさ。
「なんだそれ」
分かんないんだよなぁ…
「うーん、あれじゃね?罪悪感」
罪悪感?なんで?
「ほら、ユーリって普段探索ばっかしてるじゃん。特にこの数年。ユーリに会いに行こうと思っても、いつもダンジョンにいるからさぁ。自分でも、探索ばっかしてて家族に悪いなぁとか思ってたんじゃねーの?」
確かにここ数年は仲人に躍起になってたから、家族と過ごす時間よりダンジョンにいる時間の方が長かったよなぁ。
「若い子たちの間を取り持つのもいいけど、家族や友人たちとの時間も大切にしろよってことなのかもしれないぞ」
そうかなぁ?
まあ、そうだよなぁ。
家族は大事だもんなぁ。
「家族だけじゃなくて友人もだぞ、親友!」
分かってるって!
「そんじゃ、1杯やってくか」
おい、まだ昼間だぞ!
「休日の昼間っから飲むから美味しんじゃん」
そりゃ、そうだよなぁ。
よし、1杯だけな!


まあ、1杯で終わるわけもなく…
それでも抑えて、ポムの火酒を3杯だけで止めにした。
本当はブレソールとそのまま夜まで飲んでやろうかとも考えたんだが、妻やヒューブやジェニファーとは出かけたのに、ベアトリスとは出かけてないのが気になって途中で止めてきたのだ。
とはいえ、ベアトリスは既に成人しているので水源の滝を一緒に見に行くなんて喜ばないだろうから、茸狩りに誘った。
明日で6歳になるベアトリス。
毎朝ボビーとイチャコラしてるのは正直見たくもないが、それでも仲が良いというのはいいことだ。
ただ、この間ベアトリスがエンゲージリングを持って歩いているのを見かけてしまって、未だに動揺している。
結婚はまだまだ早い。
付き合って直ぐに結婚だなんて、いいことなんてひとつもない…と、思う。
もっとこう、お互いをちゃんと知ってからじゃないと、結婚してから後悔したって遅いんだしね。
…と言いたいが、言えない。
だってほら、若い子たちって、障害があればあるほど恋を燃え上がらせる天才じゃない?
もし結婚に反対されてるなんて誤解されたら、「パパが私たちの結婚に反対してるわ!でも、私たちの愛は例えパパでも引き裂けないわ!今すぐにでも結婚しましょう!」とか、物語のヒロインになった気分で結婚を決められてしまうかもしれない。
まだまだ結婚に夢見る年頃だ。
早まって後悔はして欲しくないもんなぁ。
こういう時はやはり女親なんだろうか?
僕が言っても逆効果にしかならない気がするもんなぁ。
今朝は「子育てに悩みはない」なんて言っちゃったけど、考えてみれば結構悩みはあるもんだなぁ。


夜、家に帰ったら子供たちは既に2階にいて、ダイニングには僕と妻しかいなかったので、ここぞとばかりに妻とイチャイチャしてみた。
これからもこうやって、人目はばからずベタベタ出来る関係であれたらいいな。

さて、実はこの日記を今日で止めようと思っている。
成人してから書き始めたこの日記だが、来年からは近衛騎士隊長の激務が待っている。
隊長の経験のある姉のジュリアに聞いてみると、想像以上に忙しいようだ。
日記を書く気力はきっと残っていないだろう。
しかし、問題は既に来年の分の日記帳を買ってしまっている、ということだ。
どうしたものか…
「パパ、まだおしごとなの?ねないの?」
ああ、ジェニーちゃん。
これはお仕事じゃないよ。
日記を書いてるんだ。
「にっき?」
そう、今日あったことを書き留めるものなんだ。
でも、パパは来年から忙しくなるからね。
日記帳が余っちゃったんだ。
「じゃあ、ジェニファーが書く!おもしろそう!」
ジェニーちゃんが?
書けるかなぁ?
「だいじょーぶ、ジェニファー字はじょーずよ」
いや、そういうことじゃなくてね、日記は続けて書かなくちゃダメなんだよ?
1日書いておしまいじゃないんだよ?
毎日じゃなくてもいいけど、続けることに意味があるんだ。
出来るかい?
「…たぶん、できるよ。毎日じゃなくていいんでしょ?」
うん、毎日じゃなくていいけど、年に何回かは書かないとね!
「わかった、ジェニファーがんばる!」
よし、じゃあパパの日記帳はジェニーちゃんにあげよう。
投げ出さずにちゃんと書くんだよ。
「うん!」
こうして僕の日記帳は娘へと受け継がれていく。
娘がこれから歩いていく、未来へと………

♡★♡゚・*:.。 。.:*・゚♡★♡゚・*:.。 。.:*・゚
【中の人】
はい、これでユーリくんの物語は終わりです。
この1年は、引き継ぎに向けて色々と準備をしてきました。
4組のカップルを誕生させ、近衛騎士隊トーナメントで優勝したり。
次の代の交友関係を色々と考えたりと、なんだか濃い1年だったように思います。
“みんなのアイドル”という性格に生まれ、しかも理想通りの肌4黒髪に生まれてきてくれたユーリくん。
だから思い切って今までやって来なかったキャラにしてしまおうと“みんなのユーリくん”になったユーリくん。
本当にただただ楽しんだ時間でした。
顔だけが取り柄の勘違いおバカさんという、何とも愛くるしいユーリくんが出来上がったことが嬉しかった。
歴代のPCでダントツ愛着のあるPCです。
そんなユーリくんとお別れして、次の世代、七代目ジェニファーとしてプレイしていくことになります。
このジェニーちゃんも、なかなか面白い子になりそうな予感がしています。
色気より食い気の天然娘ジェニファーをこれからよろしくお願い致します🙇♀️
次回からは、ジェニーちゃんのなりきり日記になります♪
